【3月1日発売!「吹けば飛ぶよな男だが」収録の書き下ろしエッセイより特別先行公開!】 SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第20回「私の頭の中のキムタク」

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公開日:2023/2/27

 なぜ「キムタクだったら」と思うようになったのか、自分でもよくわからない。具体的なきっかけというより、スピーカーから聴こえる度、テレビで見る度、私はキムタクに対して完全無欠というイメージをどんどん強くしていったのだと思う。

 語弊がありそうなので、ここで予(あらかじ)め断っておく。私はキムタクみたいになりたいとか、そんな烏滸(おこ)がましいことは思っちゃいない。人それぞれにポテンシャルなるものが存在することをきちんと理解している私は、自分がキムタクを踏襲しようとしたところで、かなり歪(いびつ)な生き物になるというところまで、十二分に理解しているからだ。

 だから模範ではなく、照合。自分が行動した結果を、キムタクと照らし合わせることが多いということだ。

 キムタクだったらこうはならずに、こんな結果になっていただろう、とか、そういうこと(本物のキムタクというよりも、私の頭の中にいるキムタクなのだけど)。

 例えばズボンのチャックが開いていたとする。気が付いた時、もしくは指摘してもらったその時。私は目を閉じて思うのだ。

「あア、キムタクだったらこうはならないよなア」

 と。

 何かドジる度、その結果を頭の中のキムタクに投影して、像を結ばなかったら猛省する。イメージが出来ないのだから、今回の事案は反省対象だと自分を戒(いまし)めるのだ。

 そして結果にとどまらず、伴うその後の行動でもキムタクを思う。

 仮に、もし仮にキムタクのチャックが開いていたとして。気が付いた時、もしくは指摘してもらったその時、キムタクならどうするだろう、と。

 私だったら十中八九、「わわ、やばいやばい」と大慌てする。しかしおそらくキムタクは、沈着冷静に、「あ、やっべ」とか小さい声で言うにとどめるだろう。そしてジイっとチャックを閉めた後、鼻からスンッと小さなため息を吐いて、あとはいつも通り。慌てた様子など周囲には見せず、ましてや「やばい」を二度繰り返して言うようなことは絶対にしないはずだ。

 

 縁石に躓(つまず)いてしまった時。

 コップにコースターがくっ付いてきてしまった時。

 靴下に穴が開いていた時。

 カレーうどんが服に跳ねた時。

 

 いつだって頭の中のキムタクを思う。

 

 かっこ良さの基準は人によってもちろん違う。それでも、かっこ悪いと思われない基準はある程度一定な気がしているのだ。

 私の頭の中でキムタクは、その基準を完璧に満たした上で、完全無欠を貫き続けている。これからも多分ずっと、憧れの気持ちを抱き続けるだろう。振り返る度、反省する度、これからもたくさんお世話になることと思います。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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