SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第21回「自意識過剰くん」

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公開日:2023/3/27

 自意識過剰という言葉を初めて耳にしたのが一体いつのことだったか忘れてしまったが、意味を調べて心のそこから思ったことがある。私のことだ、と。

 出来ないことや、失敗することを過度に恐れた結果今の自分が出来上がり、こんな風にあなたに気にかけてもらえる人間が出来上がったのだとしたら、まア結果オーライである気もするのだが。荒療治や開き直りの末、この救えない性根を武器に変えるのは、なかなかに骨が折れた。掛かった時間はおおよそ二十五年。そして武器と言ってみたものの、まア良く言って木の枝程度であるのだが。

 初めて自意識過剰に該当することを経験したのは、自意識過剰という言葉を聞いたことすらなかった時分。小学校の時だった。

 ちなみに私は小さい頃から割となんでも出来た。割と、と前置きしたのは頭抜けていたわけではないからだ。勉強も運動も大体上から三番目くらい。一番出来るわけではなく、文字通り割と出来たのだ。

 だから出来ないことがあまりなかった。結果、出来ないことにぶち当たった時の対処方法が全く分からないまま育った。

 覚えている、あれは体育の授業の時だ。

 体操服に着替えた私は、なんでも来い、という気概で意気揚々と校庭に赴いた。徒競走だろうが、縄跳びだろうが、教えてもらいさえすれば何だって出来る。そんな心持ちだった。

「はい、それじゃみんな、集まって」

 担任の先生の声掛けによりみんなが集まったのは鉄棒の前だった。何の飾り気もなく佇む鉄の棒は私にとっては面白みに欠けていて、休み時間でも、近くに寄ることすらしなかった。何だか華がないねエ、と思いながら私は地面に転がる小さな石を蹴飛ばしたりしていた。

「ぶら下がってみましょう」

 言われた通りにぶら下がる。ただ意味がわからない。これのどこに面白みを見出したらいいのか、最後まで全く分からなかった。

「それじゃあ次は、これです」

 先生はひょいと飛び上がり、腕を突っ張って鉄棒に身体を預けた。そしてそのまま前方にぐるっと一回転した。着地して、先生は得意げに言った。

「前回りです」

 まんまか。

 ますますつまらない。

「順番にやってみましょう」

 一番低い鉄棒の前に二列に並んで、私たちは順番に前回りをしていった。今日の授業はハズレだ。楽しみにしていた体育だっただけに私はとても残念な気持ちだった。

 やがて私の順番が回ってきた。先生に倣い飛び上がって、鉄棒の上で身体を支えた。あとは回れば、終いだ。

 鉄棒に巻き付くように身体を折り曲げ、ぐるっと一回転。両足で着地、と。

 

 ん。

 どういうわけだろう。身体が動かない。

 イメージしていたものと、何かが違う。私は腕を突っ張ったままの姿勢で硬直していた。時間の経過に従って、二本の腕がプルプルと震え出す。先生も友達も、前回りをしない私を不思議そうに見ていた。

 いざ回ろうと試みると、地面が近づく。いくら支えがあるとはいえ、顔面から地面に向かっていくというのは初めての経験だった。私は思ってしまった。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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