SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第21回「自意識過剰くん」

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公開日:2023/3/27

 あ、怖い。

 

 そうなった瞬間にますます身体は硬直した。腕が限界を迎え、私は地面に降りた。

 え、あ、どうしよ、怖い、出来ない、え、何これ。

 小さくパニックを起こしていると、どこからともなく声が聞こえた。

「出来ないの?」

 この時の衝撃は半端じゃなかった。悔しい、怒り、とか気骨のあるそんな気持ちではなく、ただ単純に、恥ずかしい、だった。

 怖がってしまったこと、出来ると思っていたこと、結果出来なかったこと。そして一番はそれをみんなに見られたことだった。

 この気持ちをどうやって処理したらいいのか分からず、その日私は俯いて帰った。母ちゃんに話すと、公園での特訓を買って出てくれた。しかし私は夜になっても前回りが出来なかった。

 翌々日の朝、後にも先にも言ったことがない言葉を私は、半べそで母ちゃんに言った。

「学校行きたくない」

 母ちゃんは優しく私を抱きしめ、それじゃあ今日はおやすみしようね、と言って頭を撫でてくれた。そして学校に電話を掛けて、一緒にテレビを見ました。なんてことはなく。普通に「行ってこい」と締め出された。

 それから一週間、私は一度も前回りを成功させることなく、絶望した気持ちで朝を迎え続けた。学校に行っても何も楽しくなかった。好きな図工をしていても、みんなで給食を食べても楽しいと思うことが出来なかったのは、校庭に鉄棒があるからだ。出来ない鉄棒が憎かった、そして鉄棒が出来ない自分を見るみんなも嫌だったのだ。

 そして事態は急展開を迎える。

 何のきっかけもなく、何かの拍子に私はうっかり一度、前回りを成功させたのだ。

 もう一度、と思いやってみると、また出来た。そして次の段階である逆上がりも続けて出来た。

 怖いという気持ちを克服出来たことより、恥ずかしいという気持ちから解放されたことの方が、自分にとって余程大きかった。ただ、さっきまで抱いていた気持ちをこの先何度も味わうのだとすれば、人生っておっかないぜ、とも同時に思っていた。

 

 頭のよろしい渋谷少年の想像は現実化し、彼の人生の中で大きい恥ずかしいや小さい恥ずかしいが山のように押し寄せることになるのだった。

 ただ、一つずつクリアし解放される度、苛まれていたこの気持ちと解放の経験って案外他でも応用が効くんじゃね? ということに気が付いてからは割と前向きに捉えることが出来るようにもなった。割と、と前置きしたのは全てというわけではないからだ。前向きになれない部分も三割くらい。全てにおいてというわけではなく、文字通り割と出来るようになったのだ。

 もし可能なら。出来ないことと、恥ずかしく思うこと、ひいてはいわゆる「自意識過剰」で苦しむ誰かの手助けになれるようなことまで記述できたら最高だと思い書き始めたのだが、具体的に挙げられるものが殆どないことに書いている途中から気が付いてしまった。どうしよ、何か言わなきゃ締まらない。そうだな、言えることがあるとすれば、うん。ただ一つ。

 

 気合いじゃね?

 

 ちなみにこれは、今でも自分に向けて続けている言葉だ。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第22回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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