ビジネスマンに必須の教養が一気につかめる! 【連載】第1回『国富論』

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2018/9/10

『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(蔭山克秀/KADOKAWA)

『国富論』(アダム・スミス)、『資本論』(マルクス)などの古典名著から、『クルーグマン教授の経済入門』(クルーグマン)、『21世紀の資本』(ピケティ)といった現代のベストセラーまで、ビジネスエリート必須の教養を、まるごとつかめる『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』が好評発売中です。一度は読んでみたい名著の内容が、とてもわかりやすい解説で、すぐに頭に入ります!

“経済学の父”の名著のキモは「労働価値説」にあり!

 価値には2種類あって、たとえば「水」のように、実生活では役立つが交換の役に立たないものの価値は「使用価値」、逆に「ダイヤモンド」のように、実生活では役立たないが多くのものと交換できる価値が「交換価値」だ。

 交換価値の測り方と言われれば、誰もが思いつくのが「通貨」だ。だがスミスは、通貨では「真の価値」は測れないと主張する。なぜなら通貨として使われる金や銀は、価値が変動するからだ。

 何でもそうだが、ものの量が多すぎると、価値は下がる。もしもあなたの歯がすでに総金歯なら、たとえヤフオクで1本500円の素敵な金歯が出品されていても買わないだろう。あなたの中で金歯の価値が下がっているからだ。こんな「日によって長さが変わるモノサシ」で、真の価値なんか測れるはずがない。では何で測ればいいのだろう?

 スミスの答えは「労働」だ。労働こそが、商品の交換価値を測る真の尺度なのだ。この考え方を「労働価値説」という。

 たとえば、ハサミ1つが「5人で1時間かけて作ったもの」であり、ペン1本も「5人で1時間」だとすると、この2つは交換しても互いに損がないということになる。実際にはそういう物々交換の不便さを解消するために通貨という「交換手段」を使う(たとえばハサミもペンもそれぞれ「銀貨1枚で買える」)が、通貨は価値が変動する。

 わかりやすく言えば、昨日はハサミが銀貨1枚だったのに、新たな銀山が見つかれば、今日は銀貨2枚になる可能性があるのだ。この場合は「5人で1時間」という労働の価値は変わってないが、それを体現する銀という素材の価値が下がっているのだ。

 ものの価値は変わっても、労働の価値は変わらない。時や場所が変わっても、ハサミ1つを作る「手間と苦労」は変わらない。だから、実際の交換には通貨を使うかもしれないが、その交換価値を測る尺度となるのは労働なのだ。

有名な「見えざる手」とは?

 確かに商品の交換価値は労働の価値で測ることができるかもしれない。しかし、実際の商品「価格」は、労働の価値だけでは決まらない。

 仮に資本も土地も使用しない狩猟社会ならば、狩りの手間さえ同じなら「ビーバー1匹と鹿2頭の交換」も可能だが、文明国の工業では、もっと色々使っている。

 文明国の商品生産は、労働者の労働と資本家の資本(工場や道具、機械)、地主の土地の共同作業で行われている。よって実際の商品価格は、それぞれの取り分である「賃金・利益・地代」によって決まる。これで形成される価格が「自然価格」であり、この3つがすべての「収入」の源泉である。

 自然価格と聞くと、「ああ、市場価格のことね」と思われそうだが、スミスはこの両者を区別している。自然価格は、賃金・利益・地代の相場感から自然に形成される「ちょうどいい価格」だ。

 対して市場価格は、その時市場に出回っている商品の量と、自然価格を支払う意思のある買い手(=有効需要者)の数とのバランスで決まる価格だ。

 スミスによると価格というものは、自然価格を中心にして、市場価格がその周りを行ったり来たりし、最終的には常に真ん中にあるこのちょうどいい自然価格に収まろうとする。これが彼の考える市場の働きだ。

 ちなみに、市場に参加する人は、誰も「社会の利益」なんか考えない。みんな自分の利益のことだけ考える。それでも市場が「自由」なら、供給される商品の量は自然と有効需要に見合ったものとなり、意図してやるよりもずっと社会の利益を高められるのだ。そう、彼らは狙ってやったんじゃない。「見えざる手」に導かれたのだ。

 しかしそうなると、「自由」を阻害する要素は許せない。そいつのせいで「見えざる手」は機能せず、社会の利益が高まらないからだ。スミスは自由を阻害する大きな要素として「独占」を挙げ、東インド会社の独占を後押しする重商主義を批判したのだ。

〈プロフィール〉
蔭山克秀●早稲田大学政治経済学部経済学科卒。代々木ゼミナール公民科講師として、「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。最新時事や重要用語を網羅したビジュアルな板書と、「政治」「経済」の複雑なメカニズムに関する本格的かつ易しい説明により、「先生の授業だけは別次元」という至高の評価を受けている。