ビジネスマンに必須の教養が一気につかめる!【連載】第2回『雇用・利子および貨幣の一般理論』

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更新日:2018/9/20

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失業者を減らすカギとは?

 失業問題を解決するためには、何が必要か? ケインズの答えは「有効需要を増やすこと」だ。

 有効需要とは「実際の購買力に支えられた需要」のことだ。

 有効需要は、ふつうの需要とは違う。ふつうの需要とは「あれが欲しい、これが欲しい」という「欲しがる気持ち」のことだ。たとえば日本でスマホを欲しがっている人が増えたら、「日本ではスマホの需要が高まっている」と表現する。あれだ。

 しかしいくら欲しがる人が増えても、「実際に買ってくれない」なら、スマホの生産は活性化しない。これでは雇用は拡大しない。なら必要なのは「スマホが欲しいから、買う」にまでつながる需要だ。これこそが、雇用拡大に不可欠な生産活動を支える需要である有効需要だ。

 有効需要は、大きく2つに分けられる。消費需要(家計の出費)と投資需要(企業の出費)だ。そしてこれらは実際の購買力に支えられているから、作った分だけ売れる。

 つまり企業は、有効需要の大きさ分だけ財の生産ができる。そして商品が売れれば、その代金は賃金や利潤の形で家計と企業の持ち金を増やし、それがさらに有効需要を増大させ、雇用を拡大させる。この拡大が続いて行けば、やがて社会は非自発的失業のない「完全雇用」を創り出すことができるのだ。

 しかし、この有効需要の片割れである消費が曲者だ。実は全体的に見て、人間は所得水準が上がるにつれて、消費に回す割合がだんだんと減っていくのだ。

 確かに言われてみればそうだ。たとえば年収500万円で暮らせていた4人家族が年収1千万円になったからといって、全部使い切るなんてバカなことは、あまりない。個々の事例ではあるかもしれないが、少なくとも「経済全体の傾向」としてはない。ふつうは100万円ぐらいゼイタクをして、残りは「貯蓄」に回すはずだ。

 所得のうち消費に回す割合のことを「消費性向」、所得〝増加分〞のうちさらに消費に回す割合のことを「限界消費性向」というが、結局所得水準が上がるにつれて、限界消費性向は逓減(ていげん)する。

 つまり、有効需要は減ってしまうのだ。

市場介入のススメ――不況なら金をまけ!

 結局、有効需要を構成する「消費」は、市場メカニズムに任せておけば徐々に減り、非自発的失業を解消できないことになる。このままでは八方塞がりだ。この問題、どう解決すればいいんだろう?

 ケインズはここで、画期的な提案をした。「政府が市場へ介入」すればいいのだ。

 つまり政府が政策的に金利を下げ、政策的に投資(つまり公共事業)を行うのだ。金利が下がれば企業の投資は増え、流動性選好の高まりから現金を持った国民の消費も増える。もっとも、消費が増える分貯蓄は減る(つまり企業への投資に影響が出る)が、それは中央銀行が貨幣供給量を増やせばいい(そのためにも保有する金の量によって貨幣を供給できる量が決まってしまう金本位制は廃止すべきだ)。

 民間の投資が逓減してきても、政府がその分投資すれば問題ない。「もうこれ以上投資先なんかないよ」というなら、ピラミッドでも作ればいい。あるいは大蔵省の床下にカネの入った壺でも埋め、民間企業に掘り返させればいい。古代エジプトもそうだったが、浪費的な公共事業でも、社会は十分豊かになる。

 こうして、政府のテコ入れで消費と投資が活性化すれば、生産は活発になり、企業は活性化する。そうすると新たな労働需要が起こって非自発的失業はなくなり、「完全雇用」が実現する。これがケインズ経済学だ。

 ケインズのこの発想は、従来なかった画期的な発想だ。だって個人でも国家でもそうだけど、ふつうは失業者が増えるほどの大不況に見舞われたら、人は本能的に「ヤバい! 節約しなきゃ」と思う。

 でもケインズは、不況だからこそ政府は「ヤバい! 金をばらまいて有効需要を作らなきゃ」という発想だ。

 従来とは完全に逆転の発想。だから人はこれを「ケインズ革命」と呼ぶのだ。

〈プロフィール〉
蔭山克秀●早稲田大学政治経済学部経済学科卒。代々木ゼミナール公民科講師として、「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。最新時事や重要用語を網羅したビジュアルな板書と、「政治」「経済」の複雑なメカニズムに関する本格的かつ易しい説明により、「先生の授業だけは別次元」という至高の評価を受けている。