アベノミクスの元ネタ発見!?【連載】第5回『クルーグマン教授の経済入門』がざっとわかる

ビジネス

2018/9/19

『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(蔭山克秀/KADOKAWA)

『国富論』(アダム・スミス)、『資本論』(マルクス)などの古典名著から、『クルーグマン教授の経済入門』(クルーグマン)、『21世紀の資本』(ピケティ)といった現代のベストセラーまで、ビジネスエリート必須の教養を、まるごとつかめる『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』が好評発売中です。一度は読んでみたい名著の内容が、とてもわかりやすい解説で、すぐに頭に入ります!

日本経済がはまってしまった「罠」とは何か?

 この本には、番外編として「日本がはまった罠」という章がある。そこになんと「アベノミクスの原形」となるアイデアが書かれていたのだ。

 まずクルーグマンは、1998年時点の日本を見て、ここまで長期にわたって景気が冷え込み続けるなんてことは「起きないはず」と言っている。こういう不況は、単にお金をもっと刷れば解決できるものだし、金利だってほとんどゼロだ。なのに経済は、いつまで経っても不況続き。これは一体どういうことだ?

 彼はその理由を、不良債権や高齢化のせいにはせず、「流動性の罠」のせいだと考えた。これはケインズ経済学の概念で、簡単に言うと「金利はゼロより下げようがないから、ここから先は短期的な金融政策では、どんな大規模なものでも効果はない」というものだ。

 ただこれは、あくまで「理論上の仮説」であり、実際の現象として一国単位でこれが起こったことなどなかった。クルーグマン自身も「こんな風変わりな現象は、ほとんど忘れ去られていた」と言っている。

 しかし、もし本当に日本が「流動性の罠」に陥っているとしたら大変だ。ここでは従来型の金融政策など何の役にも立たない。

アベノミクスの原形はクルーグマンの説にあった

 ここでクルーグマンは3つの提案をする。「構造改革」「財政拡大」、そして「従来型でない金融政策」だ。

 まず「構造改革」は、企業側の条件をいじくることだ。つまり規制緩和や法人税の減税、銀行の経営改善や会計のルールを変えたりすることだ。しかしこのやり方は、「日本の供給力だけ上げて、需要は放置」になってしまうため、問題の解決にならない。あくまで日本の問題の根っこにあるのは「総需要の落ち込み」というのが、彼の考えだから。つまり「みんなに金を使ってもらう」政策でないと、意味がない。

 次に「財政拡大」。これはご存じ、公共事業をガンガンやって有効需要を増やすというもの。でもこれ、ご存じってことは、すでに日本でやり尽くしていてうまくいってないやり方ってことになる。ならこれもダメ。

 そして最後の「従来型でない金融政策」だが、どうやらこれが有効そうだ。つまり「短期的な金融拡大」に効果がないなら、いっそのこと「恒久的な金融拡大」にしちゃえってことだ。日銀が「責任ある行動」の範囲内でやっても効果が出ないなら、みんなから信用できる形で「無責任になることを約束」しちゃえばいい。

 これがアベノミクスの原形だ。アベノミクスの核は「異次元の金融緩和」だが、これは「インフレ目標は2%。そこに到達するまでは日銀が金融緩和を続け、またそれを市場にアナウンスし続けていく」というものだ。もろクルーグマンの提言通りでしょう。このように金を増やし続けていく政策を「リフレーション(=リフレ。通貨再膨張政策)」という。

 確かにここまでやれば、インフレ期待を作れ、人々の凍てついたデフレマインド(「消費・投資よりも貯蓄」という、不況期の後ろ向きな心理)を解かすことができる。そう、アベノミクスは、クルーグマンの提言を理論的支柱にしていたのだ!

〈プロフィール〉
蔭山克秀●早稲田大学政治経済学部経済学科卒。代々木ゼミナール公民科講師として、「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。最新時事や重要用語を網羅したビジュアルな板書と、「政治」「経済」の複雑なメカニズムに関する本格的かつ易しい説明により、「先生の授業だけは別次元」という至高の評価を受けている。