「死の予告検査」あなたは受けたい?『究極の思考実験 選択を迫られたとき、思考は深まる。』②

暮らし

公開日:2019/10/31

  

 たくさんの石を積んだ無人トロッコが、猛スピードで迫ってきた! このままでは、トロッコの進行方向の線路上にいる5人の作業員が危ない。あなたの近くには、線路の進路を切り替えるレバーがある。このレバーを切り替えれば、左の線路上にいる5人の命は助かるが、切り替えた先、右の線路上にも1人の作業員が……! さぁ、どうする!?

死の病気の予告検査

 西暦2250年。ある国では、深刻な病にかかる人が増えていました。

 この病は、予防法もなければ、治療法も確立されていません。

 発病すればほぼ確実に、5年以内に死亡するといわれており、今最も恐れられている病の1つです。末期には痛みをコントロールする治療になり、決して楽な最期というわけにはいかないようです。

 この病気は遺伝子の異常によって発症する病で、特殊な検査をすることにより、発病時期や、おおよその余命もわかります。

 この時代に暮らすカオルは、7年後にこの病を発症し、10年後に命を落とします。10年あれば治療薬が開発されているのではないかと期待したいところですが、現時点では何もわかっておらず、望みは薄いでしょう。

 あなたがカオルなら、特殊な検査でこの事実を知っておきたいと思いますか?

 それとも、知りたくないですか?

「たまたま特殊な検査を受ける機会があり、この事実を知ってしまうあなた」と、「特殊な検査を受ける機会もなく、知らずに過ごしているあなた」のどちらがいいかを考えてください。

解説

 ここで選択を分けるポイントは、どちらにせよ病を知ることになる7年後までに存在する、7年間の人生です。その7年間を、病の事実を知っている状態で過ごすのか、知らない状態で過ごすのかを選択することになります。

 知ったことによる恐怖心や無気力、精神的なダメージやネガティブな思考のことを思うと、知らずに普段通り過ごしていたほうが明るく生きられると考えるか。反対に、余命を知ることによって計画的に人生を送ることができる、命や人生を見つめ直すことができるという考えを持つかが、選択を分ける思考実験です。

 もし、自分が半年後に死ぬことがわかったとしたら、きっと今から死ぬ準備をするでしょう。残される家族のためにも、死後に恥さらしをしないためにも、誰かに迷惑をかけないためにもと、あれこれとできることをするのではないでしょうか。生きているうちに、処分できる物は処分しておきたいと感じるはずです。

 このように、命の終わりがいつかを知るメリットがあるとしたら、「死ぬ準備ができる」という点です。

 この思考実験では、7年後に発症、10年後に命を落とすという、随分と先の未来についての告知です。それでも、その10年を悔いなく生きるために、計画的にお金は使ってしまおうとか、行きたかった場所に行っておこうとか、人生を謳歌しようと活動的になることも予想できます。

 随分早いと思われる時期から、生前整理を始める人も多くいますし、死を見つめるには10年くらいあったほうが余裕を持って物事をこなせるでしょう。

 しかし、10年後に死ぬことがわかるというのは恐ろしいものです。死と向き合うのは辛い時間になりますし、自分の運命に絶望して無気力になるかもしれません。

 家族や身近な人を巻き込んで、その人たちまで暗い気分にしてしまうこともあるでしょう。事実を知らなければ思いっきり楽しめたことが、全く楽しめなくなることだって容易に想像できます。

 もし、知らずにいれば、発症までの7年間は、恐怖や絶望感を受けることはなく、何事もなかったかのように生きていくことができます。その反面、発症後に「〇〇しておけばよかった」という後悔は残ることになりそうです。もし、「老後に楽しく暮らすために、今はキツいことも頑張ろう」と、楽しみを後回しにして、苦労ばかりしているような7年間だったとしたら、なおさら悔しいでしょう。

 ただ、この思考実験では、7年後に発病し、10年後に命を落とすという設定になっているので、病気にかかっていることを知ってから亡くなるまでの間に3年という時間があります。計画的に生きたり、人生を見つめ直したりする時間は、この3年間でも十分だろうと考える人もいるでしょう。

 さて、あなたはこの検査結果を手に入れたいですか?

<第3回に続く>