「自販機で見つけた100円玉ネコババする?」『究極の思考実験』④

暮らし

公開日:2019/11/2

  

 たくさんの石を積んだ無人トロッコが、猛スピードで迫ってきた! このままでは、トロッコの進行方向の線路上にいる5人の作業員が危ない。あなたの近くには、線路の進路を切り替えるレバーがある。このレバーを切り替えれば、左の線路上にいる5人の命は助かるが、切り替えた先、右の線路上にも1人の作業員が……! さぁ、どうする!? 思考、命、近未来、倫理に関する究極の2択で、自分で考え自分の答えを導き出す27の思考実験。

自動販売機の100円玉

 あなたは自動販売機の前にいます。

 150円のオレンジジュースを買うために、1000円札を入れました。

 オレンジジュースのボタンを押すと、ガランと音がして、ジュースとお釣りが出てきました。

 お釣りを財布にしまう前に確認すると、硬貨が6枚……。金額を数えると950円ありました。

 1000円札を入れて150円のジュースを買ったのですから、お釣りは850円であるはずです。きっと自分の前にこの自動販売機を使った人が、お釣りの返却口に100円玉を残してしまったのだろうと考えました。

 あたりを見回しても、自分の前に自動販売機を使ったような人はいません。この自動販売機はいずれかの店の敷地内にあるわけでもなさそうです。

 さて、この100円をどうしますか?

解説

 そこに店があり、この自動販売機がその店のものであると考えられるのならば、店員に「100円玉が残っていたみたいです」と、100円玉を渡してその場を立ち去る人も一定数いるでしょう。後の判断を店に任せられる点からも、楽な選択肢の1つですし、これなら罪悪感もありません。

 今回、この理由から、店の代わりになる選択肢を選ぶとしたら、「自動販売機のお釣りの返却口に戻す」になるでしょう。これは、次の人に判断を託す選択といえます。考えるのも億劫だとか、自分の物にしたくはないといった場合に、選びやすい選択肢です。

 また、どこかに届け出るとしたら、交番しかありません。ただ、100円玉という小額の場合、交番に届けるのも煩わしいと躊躇する人が多いのも事実です。

 もちろん、拾ったお金は交番に届けるのが正しいことで、社会のルールとしては、当然そうすべきではあります。

 ただ、100円のために、わざわざ労力をかけて交番で手続きをしても、落とし主が現れないことは容易に想像できます。100円玉をそのまま財布に入れても、「自動販売機に残されていた100円を自分のものにした罪で逮捕する!」なんていう事態になることはないでしょう。

 100円を交番に届けるか否かは、見晴らしがよく、車がほとんど通らない、小道の信号にも似ています。赤信号でも、車が通らなければ渡るという人は多いでしょう。「見晴らしがよく、車がほとんど通らない、小道の赤信号を渡りますか?」という問いがあったら、人が見ていたら渡らないとか、安全を確認して渡ってしまうという選択肢が票を集めるのではないでしょうか。しかし、信号無視は明らかな法律違反です。

 自転車で右折、左折をするときに、手信号をするという決まりとなると、そもそも知らないという人が多いでしょう。知っている人が少ないのですから、守っている人もまた少ないルールです。また、知ってはいるが、誰もやっていないのに自分だけやるのは、なんとなく恥ずかしいというのもあるかもしれません。

 100円玉を交番に届けるのも、赤信号を渡らないのも、自転車の手信号も、決められたルールであり、「守るべきもの」です。その上で、私たちの感情として、100円玉を交番に届ける手間、周囲の人が赤信号を渡る中、自分だけ信号が変わるまで待ち続けるときの気まずさ、自転車に乗っていて手信号をしてふらついたら……という不安などがあり、社会のルールとして決められた法律のバランスが少し悪いのか、なかなか難しい判断になってしまっています。

 今回は、設定が自動販売機であり、お釣りの返却口に残っているお金は100円です。そして、「あたりを見回しても、自分の前に自動販売機を使ったような人はいない」のであれば、お釣りを取り忘れた人が戻ってくる可能性は低いでしょう。

 ルールがあり、それが正しいことは承知の上であっても、線引きの難しい自己判断が必要になる場面は、この思考実験以外にも多いものです。

 たかが100円、されど100円。あなたは、自動販売機のお釣りが100円多かったら、どうしますか?

<第5回に続く>