「お前の秘密を知っている。500万円払え」スマホ紛失から始まった恐喝/『あなたのスマホがとにかく危ない』③

暮らし

2020/3/19

スマホ・SNSの犯罪はどんどん巧妙になり、デジタルに不慣れな人であっても無知ではいられない時代となりました。ではどうすればよいのか――。元埼玉県警捜査一課 デジタル捜査班班長が、スマホ・SNS、デジタル犯罪から身を守る方法をお伝えします。

『あなたのスマホがとにかく危ない~元捜査一課が教える SNS、デジタル犯罪から身を守る方法~』(佐々木成三/祥伝社)

スマホの紛失で始まった恐喝

 いま、振り返ってもあの1カ月は人生最大の恐怖でした。

 それは去年の4月中旬のこと、突然差出人不明の手紙が届きました。

 中を見ると「お前の秘密を知っている。500万円払え」とあって、僕のちょっとマズイ写真が1枚同封されています。

 それを見てすぐに、「あっ、スマホがやられた!」と思いました。

 

 実はその1週間ほど前、会社の同僚と居酒屋で飲んだ帰りに僕はスマホを落としていたんです。

 結構酔っていたので、スマホの紛失に気づいたのは家に着いた直後。

 すぐ自宅の固定電話からスマホにかけましたが、近くで鳴る音もせず、応答もありません。

 これは本格的に失くしたらしい……そう思い、携帯ショップも閉まってる時間なので、とにかくクレジットカード会社に電話をし、ネット通販利用時にスマホに登録していたクレジットカードを止め、近所の交番に届け出て、その日は眠りにつきました。

 

 翌朝、まずはできることをしようと、もう一度自宅の固定電話からスマホに電話。

 すると、今度はわずか数コールで誰かが出ました。

「あ、それは僕のスマホです。昨夜落としました」と伝えると、「こちらは●●駅前交番です、今朝小学生の男の子が拾って届けてくれましたよ」と言います。

 そこは昨夜飲んだ店の近くにある交番でした。

 ほっとした僕は、会社に行く前に立ち寄ってスマホを受け取ると、その日のうちに小学生の家にお礼の品と礼状を送る手配を済ませました。

 やれやれこれで一安心。戻ってきてよかった。

 しかし、そう喜んだのも束の間、それから1週間ほどして例の脅迫の手紙が送られてきたのです。

 

・・・
 

 あの写真はスマホに保存してあったので、ロックが解除されたのは明らかでした。

 でも犯人はあまり苦労しなかったはずです。恥ずかしい話ですが、僕の設定したパスワードは、一番安易とされる「123456」。

 まさか失くすと思わないので、簡単なのにしていました。

 だって複雑なのだとイチイチ面倒くさいから。それが失敗でした。

 

 僕もここ数年は、スマホで管理するものが増えました。

 仕事相手の名前、電話番号、メールアドレス、生年月日はもちろん、写真、動画、メール、連絡先なども全部入っています。

 ロックを解除できれば、それが何でも見放題の取り放題です。

 おそらく犯人もクレジットカードが止められていることに気づいたのでしょう。

 そこで目をつけたのが、手紙で送り付けてきた写真だったんだと思います。

 実は僕はバツイチで、いまの奥さんと再婚する前に一時期別の女性と付き合っていました。そのときホテルで撮った、ちょっと人には見せられない類の写真が複数枚スマホに残っていたんです。

 それをネタに犯人は、「金を出さないとネットにばらまく」と脅してきたのです。

 

・・・

 

 二度目の接触があったのは、それから3日ほどした頃で、今度は僕のパソコンに「4月末までに金を用意しろ」と見慣れないアドレスからメールが届きました。

 犯人は個人情報の登録が不要なフリーメールアドレス(@以下にあるドメインを検索してわかりました)を使っていて、そのアドレスからこの前とは別の写真を1枚送ってきました。

 僕は堪らず、「500万円なんて大金、とてもうちにはないです。待ってください」、そう返信をしました。しかし犯人からの返信はありません。

 弱みを握られているのは、精神的にかなりきつい。しかもスマホに入っている個人情報を、犯人側はすべて把握している。

 たたみかけるようにきた第二波にかなり動揺しました。

 次の休みには、警察に相談に行こう……。

 

 ところがそう思っていた翌日、残業して帰った僕は、妻の言葉にさらなる衝撃を受けました。

「さっきあなた宛てに電話があったわよ。写真の件、よろしくお願いします。それだけ伝えてくれればいいですからって。何のこと?」

「あ……、ああー、去年高校の同窓会があったろう。あのときの写真がほしいって、欠席したやつに頼まれてたんだ。そいつだよ」

 咄嗟にごまかしたものの、あまりの恐怖に声が震えるのが自分でもわかりました。

 脅迫の魔の手が真綿で首を絞めるようにジワジワと迫ってくる……。

 1時間後、たまりかねた僕は「たとえ500万円を払ったとしてもそれで恐喝が終わるとは思えない。警察に届けるしかない」と覚悟を決め、妻に一連の経緯を正直に打ち明けて、翌日警察に相談に行くことにしました。

 

・・・

 

 犯人が逮捕されなければ、脅しはなくなりません。

 そこで相談に行った際に警察からされたアドバイスに従い、犯人と接触を続けることにしました。

 最終的に「200万円なら何とか工面できる」と恐喝に応じるふりをし、犯人を現金の受け渡し場所におびき出したのです。

 そうとは知らない犯人は、待ち構えていた警察に恐喝未遂の現行犯で逮捕されました。38歳のニートの男でした。

 供述によれば、たまたまスマホを拾ったのは僕が飲んでいた居酒屋のすぐ近くで、その夜のうちにロックを解除してデータを抜き取ると、翌朝、あえて交番からほど近い小学校に続く歩道に捨てていました。男はスマホが交番に届けられて見つかることで、持ち主が油断するのを狙っていたそうです。

 スマホを失くしてから事件が解決するまでの約1カ月間、生きた心地がしませんでしたが、警察の人からは「ある意味運がよかった」とも言われました。

 犯人がもっとスマホやネットの世界に詳しい人間であれば、こちらの紛失届よりも先回りして、それこそ映画の『スマホを落としただけなのに』のようにクレジットカードの不正利用やSNSでのなりますまし詐欺など、さらに深刻な事態が起きていた可能性があったからです。それも友人知人を次々とトラブルに巻き込みながら。

 

 画面ロックのパスワードをあんな簡単なものにしていた自分が馬鹿だった――。

 いまは簡単に解除できないように、もっと複雑なものに変えています。

<第4回に続く>

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