難しい知識はいらない! 哲学的思考力がビジネスに必要不可欠な理由/『哲学シンキング』③

ビジネス

公開日:2020/3/20

今後5年10年のビジネスは“問題解決型”の能力より、“課題発見型”の能力が重視される時代になる――。次の課題を見極める力を高め、世界のトップ人材に求められる新時代型の能力を身につけるための思考メソッド「哲学シンキング」を紹介します。

『「課題発見」の究極ツール 哲学シンキング 「1つの問い」が「100の成果」に直結する』(吉田幸司/マガジンハウス)

ムズカシイ知識はいらない

 哲学シンキングを実践するうえでは、最新のビジネスメソッドも、特別な哲学の知識も必要ありません。

 哲学の知識はときにいろいろなヒントを与えてくれますが、「哲学的に考える」という点においては、さしあたり不要です。

 実際、「知恵を愛し求める者」として有名な哲学者、ソクラテスの考え方が参考になるでしょう。

 ソクラテスは古代ギリシャの哲学者。「よく生きること」を探求し、弟子のプラトンをはじめ、後世のひとびとに多大な影響を与えた人物です。

 彼は「ソクラテス以上の知者はいない」という神託を友人を通じて聞いたのですが、自分が知者だなんて、まったく身に覚えがありませんでした。

 そこで神託の真意を探るため、政治家や作家など、知者と思われるひとびとと問答をくり返すのですが、彼らはソクラテスに次々と論駁(ろんばく)され、無知を暴露されてしまいます。

 ここでソクラテスは、あることに気づきます。

 一般的に知者といわれているひとびとは、博識であったり雄弁に語ったりするけれども、「善とか美とか、もっとも大切なことがら」について知らないのに知ったつもりになっている。一方、自分はそれらについて知らないことを自覚している、と。

 これを「無知の知(自覚)」といいます。かのソクラテス自身でさえ、「善美なることがらを知りたいと希(こいねが)うひと」でしかなく、「知者」ではないと思っていたのです。

 これは、あらゆるものごとを考えるときに重要な「心がまえ」の1つでしょう。「自分の知識を疑えるひと」「自分の無知を自覚し、ほんとうのところはどうなのだろうかと追究できるひと」は強いのです。

 そもそも大学などにいる「哲学の専門家」と呼ばれるひとたちもみな、最初は哲学の素人でした。ですが、教員や先輩から哲学の手ほどきを受け、さまざまな考え方と接しながら、自分独自の思考を身につけてきたのです。

 その考え方は冒頭でご説明したとおり、みなさんの想像をはるかに超え、実生活やビジネスで活用できてしまいます。

 この本で紹介する「哲学シンキング」は、1人でもできますし、複数人のワークショップ形式でもできます。

 哲学シンキングは、ぼく自身が哲学の論文を書いたり、哲学的な問題を考えたりするときに、いつも自然とやっていた手順を、誰でも真似できるようにした思考術。

 その方法を使ってビジネスパーソン向けのセミナーで、いつもどおり司会進行(ファシリテート)をしていたら、企業のひとたちから「こんなに目からウロコの気づきが得られるとは思わなかった! すごいね! どうやっているの?」と注目されるようになりました。

 そんなわけでいつしか、大手企業の組織開発やマーケティングリサーチ、コンセプトメイキングなどのプロジェクトで取り入れられるようになり、最近では「哲学シンカーR養成・認定講座」というセミナー事業も展開しています。

「IBM」や「東芝」「横河電機」といった企業のコンサルタント、デザインシンカー、デザイナーの方々が受講し、デザイン思考など、ほかのメソッドとも組み合わせながら、自身の仕事で活用されている方もいます。

「A4の用紙とペン1本」を持って

 プライベートでもビジネスでも、適切に課題を発見・設定し、問題解決に使える、この哲学シンキング。A4の紙3~4枚と、ペン1本でできてしまいます。

 ポストイットもホワイトボードもいりません。

 言葉では伝えにくく、絵に書いたほうがわかりやすいときなどに、まれにホワイトボードを使いますが、基本的には不要です。

 もっとやり方に慣れてくれば、紙やペンがなくても、頭のなかでできるようになります。

 人生や仕事で道に迷ったとき、どの道がベストか、スーッと明るい見通しをつけることができるようになります。それは自分オリジナルの「人生の羅針盤」をつくること。

 とはいえ、「ソクラテスは1日にしてならず」。

 哲学は、いわば「思考の筋トレ」です。

 毎日たった10分でも継続的に鍛えることで始めて、強靭(きょうじん)な思考力を身につけることができます。

 この本を読み終えたときにみなさんは、人生やビジネスの逆境を、自分自身でかるがると乗り越えていくための、究極のツールを手に入れることになるのです。

<第4回に続く>