「なぜ?」をどんどんさかのぼり、問題の本質を突きとめる/『哲学シンキング』⑧

ビジネス

公開日:2020/3/25

今後5年10年のビジネスは“問題解決型”の能力より、“課題発見型”の能力が重視される時代になる――。次の課題を見極める力を高め、世界のトップ人材に求められる新時代型の能力を身につけるための思考メソッド「哲学シンキング」を紹介します。

『「課題発見」の究極ツール 哲学シンキング 「1つの問い」が「100の成果」に直結する』(吉田幸司/マガジンハウス)

STEP3-A 議論を組み立てる

 さて、いよいよここからが哲学シンキングの本題です。「ステップ3」にいたってはじめて、問いについて考えていきます。

 最初に考えるのは、「ステップ2 問いを整理する」で見通しを立てた「C おばあちゃんのお店を救うことの意味や理由についての問い」です。

 このグループには、次の問いが含まれているのでした。おさらいしてみましょう。

 5「救うってどういうことなのか?」
 6「おばあちゃん(の気持ちなど)を救いたいのか? お店をつぶしたくないのか?」
 7「そもそも、おばあちゃんは和菓子屋を続けたいのか?」

 これらの問いのうち、どれを考えるか、どこから考えるかについては、自分がピンときたものや、考えやすいものからでかまいません。

 1つの問いをじっくり考えることもあれば、複数の問いを考えることもあるでしょう。

 このステップで大事なのは、1つの木になるように、問いに対する「議論」の体系を組み立てていくことです(73~75ページ参照)。

「議論」は、「前提」「推論」「理由」などをもとに「主張」(あるいは「結論」)を積み上げていくことでつくられます。

「ぼくは、おばあちゃんを救いたいんだ!」とか「おばあちゃんは、売り上げをアップしたいはずだ!」と声高に叫ぶだけでは、議論ではありません。次の58ページのように論理的に議論を組み立てることは、哲学シンキングにとってとても大切です。

 ただし、哲学シンキングは論理的思考だけでくみつくされる思考法ではありません。

 論理的な規則だけからは、新しい発想は生まれませんし、そもそも論理は、論理によって基礎づけられないさまざまな前提の上に成り立っています。

 哲学シンキングは、「なぜ、そう言えるのか?」「そもそも〇〇とは?」「もし、〇〇だったら?」などと問いを重ね、結論や推論、前提を疑いながら、議論を組み立てていきます。

 ほんとうに、売り上げが落ちたら、お店をたたまないといけないのか?

 推論に飛躍はないか?

 売り上げ低下以外にも、おばあちゃんが悲しい顔をした理由はないか?

 合理的な議論体系を組み立てるだけでなく、その過程で生まれる問いに問いを重ねて「別の可能性=分岐点」を押し広げ、「隠れた前提」を見つけることが、哲学シンキングの真骨頂です。

 思い込みを取り除き、前提の前提をさかのぼっていくことで、より根源的な原理を追究していくことは、古代ギリシャの哲学者プラトンもやっていた哲学的思考です。

 たとえば、「あの景色は美しい」「この音色は美しい」「She is beautiful」など、個々の「美しいもの」をわたしたちは認識し、お互いに言葉を交わしています。

「美しいもの」は多種多様かもしれないけれど、「美しいもの」に共通する「美」の本質は何か。プラトンはそれを「美のイデア」と呼び、ロゴス(理性、言葉、論理)を頼りに、それを探求しようとしました。

 ほかにも彼は「勇気とは何か」「正義とは何か」など、さまざまな問いを問うたのですが、いくつかの前提から議論を組み立てるなかで、対立意見や矛盾を引き出し、かえって「そもそも〇〇とは何か」を考えさせます。そうして、ものごとの本質(イデア)にさかのぼろうとするのです。

 そもそも「美そのもの」なんて実在するのか、普遍的なものの追求が哲学なのかというと哲学者でも意見が割れますが、思い込みや前提を疑い、議論を深掘りしていく点は、哲学的な思考の一部といえるでしょう。

 そうしていくうちに、最初は素朴だった問いが、だんだん1つの木のように枝葉を伸ばし、「1つの体系(システム)」になっていきます。

 哲学シンキングの肝(きも)は、そうした「議論体系」を育てていくことにあります。A4の紙には、そうした樹形図のような体系を描いていくのです。

 ところで、この議論体系をつくるだけでも、思考は整理され、新たな気づきが生まれていくものですが、もっとも革新的な成果が生まれるケースは、じつのところ、この合理的な議論体系が「脱臼(だっきゅう)」し、破壊されるときです。

 みんなが疑ってもみなかった大前提が、誰かの突拍子もない発言によってくつがえされることで、斬新な発想が発見される場面が、哲学シンキングでは頻繁(ひんぱん)に起こります。

<第9回に続く>