「あなたに出会えて幸せ」どう表現する!? 感謝の心がより伝わる、種田山頭火の言葉/文豪のすごい言葉づかい辞典⑤

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/3

夏目漱石、太宰治、三島由紀夫など、文豪の語彙を解説。手紙、メールで使えば、より気持ちが伝わりやすくなる“すごい言葉づかい”が身につきます。文豪ならではの深い教養とあわせて、絶妙な言い回しを学びましょう。

『文豪のすごい言葉づかい辞典』(山口謠司:監修/宝島社)

画/alma

自由律の俳句で知られる、大正・昭和前期の俳人・種田山頭火。引用の日記は亡くなる約2か月前、晩年を過ごした小さな庵で書かれたもの。

幸福すぎる幸福

意味:めったにない幸い。得難い幸運。

よくある言い方:「あなたと出会えて、これほど幸せなことはありません」

絶妙な言いまわし:「あなたと出会えて、幸福すぎる幸福です」

種田山頭火『一草庵日記』「八月十九日」より
蚊帳の中でゆっくり食事する、そしてすなほに大の字に寝ころぶ、幸福すぎる幸福だった。

本来の意味をかみしめて使いたい!

 俳人・種田山頭火は、青年時代には家業の倒産や家族の離散などで苦労し、40代での出家後は経を読み、施しを受けながらの「乞食の旅」に明け暮れた、いわば極貧の人です。彼が晩年の日記に書いた「幸福」からは、言葉本来の意味が見えてきます。

 文字の成り立ちから見ていきましょう。「幸福」の「幸」は、手械をした罪人の姿を表し、運よく刑罰を逃れたような幸いということからできた漢字です。

 一方、「福」の左側は神様を表す「礻(しめすへん)」、右側の「畐」は御神酒がなみなみと入った樽の形が由来です。合わせて「幸福」とは、「めったにない幸いがたっぷりあるさま」を表す言葉なのです。本来の「幸福」には、現在私たちが考えるよりも、はるかに強い意味があったのです。

 これからはそのことを意識して「幸福」を使うようにすれば、「尊敬できる人に出会えた幸せ」や「すばらしいことにめぐり合えた幸せ」に対する感謝の心が、より強く相手に伝わるはずです。

<第6回に続く>