意欲と気分が合わず不安感や焦燥感に襲われる。「双極性障害」とは?/「薬に頼らずに、うつを治す方法」を聞いてみました⑨

暮らし

公開日:2020/7/24

復職後再発率ゼロの心療内科の先生に、”うつ”についてのあれこれを聞いてみました。「こころの病気」や「うつ病」、「いかに、うつを治すか」などについて学びながら、回復していくプロセスをわかりやすくリアルに伝えます。

『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らずに、うつを治す方法」を聞いてみました』(亀廣聡、夏川立也:著/日本実業出版社)

 亀仙人は、ホワイトボードに青と赤のマーカーを使って、少しずれた波形を重ね合わせた図を描いて一生懸命に説明します。

1 波形がずれているので同調せず、少しずつ気分と意欲の差が開き、気分はよくても意欲が湧かない状態が生まれる。
2 そこに意欲が追いついてくると気分も意欲も一致してプラスになる軽躁状態になる。
3 次に逆転がはじまって、意欲はあるのに気分が悪いという状態になる。
4 さらに時間が経過すると、気分と意欲がマイナスで一致する状態が生まれる。(いわば底打ち体験)

 このサイクルを、ときに数か月から数年かけて繰り返すのが「双極性障害」で、波形のズレによる「躁状態」と「うつ状態」が混合して存在してしまう「混合状態」が特徴です。

・意欲はあるのに気分が悪くて動けない。だからあせる。
・気分はいいのに何かしようという意欲が湧いてこない。だからイライラする。

 このような「躁うつ混合状態」になると、なんとも言えない不安感や焦燥感に襲われて、いても立ってもいられないイラだちを感じてしまうそうです。それに、さきほどの自律神経失調状態も加わるのです。そして、思考が亢進状態(※6)になるとネガティブなこと悪いことばかりをグルグルといつまでも考え続けてしまうのです。

※6 亢進状態とは何らかの原因でバランスが崩れ、思考や脈拍といったものが必要以上に高ぶり、活発となる状態のこと。

 双極性障害の最大の問題は、波形のズレによる混合状態だと亀仙人は言いました。

 

 亀仙人の説明を聞いて、私は知らないうちに心の声をつぶやいていました。

「双極性障害って、脳神経系のズレが原因なんですね……。意欲と気分が合致せずに動けないつらさ、わかります。たしかに、つらい状況ですよね」

「波形のズレを小さくすることが双極性障害の治療なんだ。薬に頼らずに治すことができるから安心して」

 亀仙人はマーカーを置いてデスクに戻ると、おもむろに引き出しを開けました。何か資料でも取り出すのかと思って見ている私の目に飛び込んできたのは、驚いたことにコアラのマーチです。

(そう言えば、さっき好きだとか言ってた……)

 亀仙人は箱に指を突っ込んでガサゴソとひとつ取り出すと絵柄をしばらく眺めてから、ヒョイと口の中に放り込みます。

(診察中なんですけど……)

 唖然として見ている私に気づいたのか、亀仙人は言いました。

「ほしいの?」

「いや、そういう意味ではないんですけど……」

「あげるよ」

 そう言って、またガサゴソとひとつ取り出して絵柄を眺めた亀仙人が声を上げます。

「おっ!」

「どうかしたんですか?」

「大吉コアラだよ」

 ドテッ。

「ひなたちゃん、ついてるよ。ほら食べて」

「ついているんですか?」

(たしかに、ここのところ、気分と意欲が合致しないような、なんとなくイライラして、落ち着かないような、そわそわする感じのことがよくあった……)

 亀仙人に手渡されたコアラのマーチをほお張りながら、私はそう思い返していました。

 その向こうで、亀仙人はぶつぶつとつぶやいています。

「しかし、なんでコアラのマーチのパッケージは六角柱なんだろう? う~ん、夜も眠れない……」

(ちゃんとしてそうで、そうでなかったり。この人はホントによくわからない……)

<第10回に続く>