強烈な違和感!…部屋中に“女ドロボウ”への手紙が貼られている!? /子育てとばして介護かよ⑥

暮らし

2020/7/11

子育てとばして介護かよ

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:

30代で出産する人生設計だったのに、気づけば40代に突入…いろいろ決断すべきタイミングで、なんと義両親の認知症が立て続けに発覚!
仕事の締切は待ったなし、夫の言動にもやきもきする――そんな現実に直面したらどうする? 久しぶりに会った親が「老いてきたなぁ」と感じた人は必読! 『子育てとばして介護かよ』(島影真奈美:著、川:マンガ・イラスト/KADOKAWA)から“書き下ろし”を含む試し読み連載です(全9回)。

『子育てとばして介護かよ』(島影真奈美:著、川:マンガ・イラスト/KADOKAWA)

お正月のおせちが机の上にあります

 もの忘れ外来の受診を勧めたやりとり以降、夫の実家からは連絡がなかった。最近はもの忘れ外来の予約をとるのにも時間がかかるという話も聞くし、あまり急かして親の機嫌を損ねるのも得策ではない。気長に待つか……と思っているうちに時間が経ってしまった。

「次の正月の集まりは、食事が終わったあと、実家に寄ってみようか」
 夫とそんな話になったのは2016年の12月半ばのことだった。

 毎年、正月になると夫の実家では、義父母と義姉夫婦、姪(めい)たち、そしてわたしたち夫婦も加わって「ファミリー新年会」が開催されていた。以前は実家に集まっていたが、ここ数年は近所の寿司屋(すしや)に集合するのが定番だった。例年なら、新年会が終わると「俺たち、仕事があるから」と早々に離脱する。でも、今回は少々事情が異なる。ふた言目には「うちの親のことは放っておいていい」「気にしすぎ」と笑い飛ばす夫が、「やっぱり、一度実家の様子を確認したほうがいいな」と神妙な顔をしていた。夫は夫なりに何か思うところがありそうだった。「姉貴にどう伝えるのかも考えなくちゃいけないしね」とも言っていた。

 そうそう、おねえさん! 義姉にはまだ、義父母との奇妙なやりとりを伝えていなかった。早く伝えたほうがいいような気もしたけれど、どう伝えたらいいのかわからない。そもそも、義姉と会うのは義父母と同じく年に1回程度で、直接電話で話をするような仲ではなかった。接点がなさすぎて、キャラクターも行動特性もつかめていない。唯一知っていたのは、弟である夫に対して、かなり強めの〝姉貴風〞を吹かせることがあるということぐらいだった。

 いつまでも伝えずにいると、発覚したときに「どうして言ってくれなかったの!」と、気持ちのしこりを生じさせる可能性がある。それはわたしも、夫もわかっていた。でも、中途半端な情報を伝えると、かえって混乱させるという懸念もあった。

 義姉とのやりとりは、事実を確認したうえで、慎重に進めよう! というのが、わたしたち夫婦が出した結論だった。

 まずは夫の実家を訪問し、最新の状況を確認する。そのうえで情報を整理し、義姉にどう伝えるのか決める。気持ちとしてはいたって前向きなつもりだったけれど、行動としては全力で腰が引けていた。

 もうひとつ課題があった。毎年、新年会がおひらきになった途端、そそくさと帰ろうとする我々が「実家に寄りたい」などと言い出したら、ほかの家族は間違いなく不審に思う。義父母に警戒心を与えてしまっては、元も子もない。

 そこで、わたしたちは小芝居を打つことにした。
 新年会の席で「親父の米寿の祝いをしてなかったから、プレゼントを持ってきたんだよ」と夫が切り出すというものだ。実家に寄る口実をつくるために、こまごまとした設定が必要な「コードレススピーカー付きのテレビリモコン」を購入した。

 新年会当日、プレゼントのことを伝えると、義父母は「ありがたいことです」「まあまあ、そんな気を遣わなくていいのよ」と言いながら、顔をほころばせた。そこですかさず、夫が切り出した。

「このまま渡したいところだけど設定も必要なので、ちょっと家に寄らせてもらってもいいかな」
「そうか。構わないよ」
「あら、全然片付いてないわよ」

 義父母は疑う様子もなかった。義姉夫婦や姪たちとは新年会のあと、最寄り駅で解散し、義父母と実家に向かった。

「あなたたちが来るなら、もっと片付けておけばよかったわ」
 義母はそう言っていたけれど、玄関の印象は以前とさほど変わらなかった。極端に靴が散らかっていたり、ごみが放置されたりしている様子はなかった。悪臭もない。ごくふつうの玄関に見えた。

「さあさあ、手を洗っていらっしゃい」
 義母にうながされ、洗面所に向かう途中、違和感を覚えた。ドアに手紙が貼られている。こまかな字で読みづらいが、冒頭に「拝啓 名前も知らぬ貴あなた女へ」とあった。なんじゃ、こりゃ!


 周囲を見回すと、ドアや和室のふすまなど、部屋中のあちこちに何枚も便せんが貼られていた。

「他人の家に断りなく入り込むのはやめてください」
「大切なものがなくなった気持ちを考えたことがありますか」
「お願いだから出て行ってください」

 そんなメッセージが几帳面(きちょうめん)な文字でびっしりつづられている。
 例の「2階の女性」に宛てた手紙だった。義父母は本気でその存在を信じている。というか、やっぱり実在するの? どうとらえたらいいのかわからない光景だった。隣にいた夫も顔をこわばらせている。「あれ、撮っておいて」と小声で伝えると、無言でうなずき、かばんからデジタルカメラを取り出した。

 手紙の文面はどれも、驚くほど長かった。厳しい口調で不法侵入を問い詰めたかと思うと、「子どものとき、友達のおもちゃは友達に断ってから使わせてもらいましたよね」と改心を促す。さらには、「わたしたちは子どもの支えになりたいのに、それができないのがつらい。あなたが出て行ってくれさえすれば……」と泣き落とす。

 年明け早々に書かれたらしき手紙に至っては「新年おめでとうございます」で始まり、なぜか「初はつ詣もうでに行ってきます」と〝女ドロボウ〞に向かって報告している。「お正月のおせちが机の上にあります。少しずつですがお召し上がりください」というメッセージまで添えられていた。下宿のおばちゃんと店子(たなこ)か。

 もはや「見知らぬ貴女」に対して、義父母がどういう感情を抱いているのかもよくわからない。思い切って、この手紙について聞いてみたほうがいいのか。さすがにそれはマズいのか。

【次回に続く!】

【この話題の連載を初回から読む!】▶『子育てとばして介護かよ』

この記事で紹介した書籍ほか

子育てとばして介護かよ

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784041081563