コロナで減給、イライラして…。“コロナ殺人”を防ぐための夫婦間での取り組みとは?/コロナ危機を生き抜くための心のワクチン⑤

暮らし

公開日:2020/8/26

家族、人間関係、経済、仕事、人生――新型コロナ禍の世界で、私たちは様々な悩みや心身の危機とどう向かいあうべきでしょうか? “絶望に陥らないための智恵”と“法律の知識”を、全盲の熱血弁護士が今、あなたに伝えます!

コロナ危機を生き抜くための心のワクチン
『コロナ危機を生き抜くための心のワクチン – 全盲弁護士の智恵と言葉 -』(大胡田誠/ワニブックス)

怒りを抑えて「コロナ殺人」を防ぐ

 2020年4月、新型コロナウイルスの感染者が急増していた頃、東京都江戸川区で、〝コロナ殺人〞ともいえる事件が起きました。

「新型コロナウイルスで出勤が減って、私の給料が減った。あなたの稼ぎも少ないから、私たちこれじゃあ、生活ができないわね」

 その一言がきっかけで、59歳の夫が、57歳の妻に暴行を加え、119番通報で搬送された病院で妻は亡くなったというのです。死因は、後頭部を打ったことによる急性硬膜下血腫。「妻から罵られ、頭に来た」と夫は容疑を認めました。

 何とも痛ましい事件です。「コロナさえなければ」と見えないウイルスに怒りをぶつけたい気持ちです。茫漠とした不安や心配事が社会全体を覆いつくしている今、同種の事件がまたどこかで起こるのではと危惧され、暗澹たる気持ちになります。

 怒りの根底には、不安や困惑といった複雑な感情が潜んでいます。怒りの感情を抑えるためには、「腹がたっても数秒間我慢」すると精神が落ちつきます。

 もし、あなたがカッとなったら――その時は、グッとこらえて1・2・3・4・5……、と心の中で数を数えましょう。そして、10秒数えたら、深くゆっくりと深呼吸をしましょう。

 

 新型コロナウイルスの感染が深刻化して以降、僕たち夫婦が日々、実践しているストレス解消法があります。

「1日1分、夫婦水入らずで会話をしよう」

 僕のほうから妻に提案し、毎日、実行しています。

 夫婦のどちらかが、〝その時〞言いたいことを我慢すると、その感情はまた別の仮面をかぶって夫婦の間に登場します。

 そのため、1日1分でも、夫婦が本音で向き合う時間を持つことが大切です。

 視線を合わさずに会話をする夫婦、否定的な態度をとりがちな夫婦は離婚する確率が高いと言われます。僕たち夫婦は、つねに自分の感じていること、考えていることを相手に伝えたいと思っています。

 2010年秋。結婚した時、僕は33歳、妻の亜矢子は35歳でした。

 その時、妻のお腹には4カ月の命が宿っていました。

「二人とも目が見えないのに、結婚してどうやって生活するの?」
「子どもを育てられるの?」

 僕自身、正直、結婚を前にしてなお、躊躇していました。

 そんな僕の背中を結婚へと押したのは、「母の自殺」でした。

 当時、母は乳がんの手術で、がんを完全には切除できず、抗がん剤治療を続けており、その副作用で食事もとれず、心身ともに疲弊していました。

「誠、おまえが小さい頃、ずいぶん厳しくしてごめんね」

 電話越しに母は涙声で僕に言いました。それが、僕への最後の言葉でした。

 2週間後、母は自殺しました。58歳、早すぎる死でした。

 人の命とは、なんとはかないものか――僕は、母の亡きがらを前に思いました。

 命がこれほどはかないものであるならば、同じ場所で同じ時を今、共有できる相手が存在していること自体が、奇跡なのだと。

 僕は「自分にとって真に大切な存在とは誰であるか」を真剣に考えました。

 真っ先に浮かんだのは当時、付き合い始めて5年ほどになっていた僕の妻、亜矢子のことでした。

 その時、僕は亜矢子と家庭を作ろうと決心しました。母が亡くなって失意の中にいた僕を気遣い、支えてくれたのはまぎれもなく亜矢子その人でしたから。

 そして、僕が亜矢子と結婚するのを最も強く望んでいたのは、母でした。

「妊娠ですよ、おめでとうございます」

 産婦人科医は妻に、妊娠6週目であると告げました。

 結婚して今年で10年、長女は9歳、長男は7歳に。二人の子どもに視覚障害はなく、今では道を歩くときには、僕たち夫婦の手を引き、「案内人」を務めてくれるようになりました。

怒りの感情は、数秒で落ち着く
一日一分でもいいから、夫婦で本音の会話を交わすこと
大切なことは、二人が出会った原点を思い、慈しむこと

<第6回に続く>