与四球率1.77個の抜群のコントロールが武器。さらなる飛躍が期待される巨人のエース【菅野智之】/名投手 – 江夏が選ぶ伝説の21人 -⑤

スポーツ・科学

公開日:2020/9/23

引退後も積極的に現場に赴き、プロ野球の最前線を見てきた江夏豊。数々の逸話を残した彼が選ぶ最高の投手たちとは? 歴史に残る大投手から、令和のプロ野球界をけん引する現役投手まで、記憶に残る名投手をご紹介します。

名投手 - 江夏が選ぶ伝説の21人 -
『名投手 – 江夏が選ぶ伝説の21人 -』(江夏豊/ワニブックス)

菅野智之

 菅野智之君は、ご存じの通り、原辰徳監督(巨人)の甥っ子。日本ハムの12年ドラフト1位を拒否して、1年間浪人生活を送ったのにもかかわらず、13年13勝6敗。その年の楽天との日本シリーズ。第2戦で田中将大君に敗れたものの、第6戦で田中君に投げ勝つ。シーズン24勝0敗、ポストシーズンも勝ち続けた田中君に、その年初めて土をつけた。

 以後、順風満帆にキャリアアップしてきた。16年からの3年連続「最優秀防御率」は、あの「神様」稲尾和久さん(西鉄=56年~58年)以来、実に60年ぶりの快挙だった。しかも、17年は17勝、防御率1.59の二冠。18年は15勝、奪三振200、防御率2.14の三冠。いずれも「沢村賞」に輝いている。

 また、18年クライマックスシリーズのヤクルト戦で達成したノーヒットノーランは、ポストシーズン史上初であり、19年の推定年俸6億5000万円は佐々木主浩君(横浜)に並び史上最高額となった。

 菅野君は、メジャー・リーグのマダックス(カブスほか)を理想としている。実に投球回5008を投げ、「9イニング平均与四球率」1.80個。「精密機械」の異名を取った絶妙なコントロールで、通算355勝を稼いだ。

「1試合27球で27個のアウトを取る」ことがマダックス自身の理想であり、1試合を100球以内で完封することをメジャーでは「マダックス」と呼ぶ。菅野君はそのマダックスの投球を理想としているらしい。

 19年現在、プロ通算7年でまだ1222投球回ながら、与四球率は1.77個とその片鱗は垣間見せている。155キロのストレート、スライダーが武器。左打者に対して、胸元のストレートと膝元のフォークボール。右打者に対しては、スライダーやカットボールが主体になっている。

 

 ただ19年は11勝しながらも、規定投球回に達しなかったし、防御率も3.89。背中、首が痛くて、一番大事なところで力が入らない、力が抜けてしまうフォームだった。入団時に比べると少し太った。私も広島時代以降、少し腹に肉がついた。しかし、私の持論として、前に肉がつくのは構わないが、横についてはいけない。

 先述したように、ランニングにしても球場のポール間を走る長距離走だけでなく、10m・20m・30mのダッシュをやって、体の切れを出すべきだ。

 この20年から、「球をセットした両腕を緩やかに右肩に運んで始動する」投球フォームに改造した。投球フォームとは、「リリース」の瞬間、力を10出すための準備動作である。そのためにはどうしたらいいか、自分なりに考えてああいう動作にしたんだろう。田中将大君の始動に若干似ている感じがする。

 あのイチロー君にしても、メジャー入りした01年に従来の『振り子打法』から、右足を振らない打撃フォームに改造した。進化を求めたのだ。今後は、チーム状態に左右される勝ち星うんぬんより、ワンランク上の投球内容をめざしてもらいたい。

 菅野君は、18年10試合あった完投数が、19年は3試合と激減。やはり、せめて2ケタがノルマだ。投球回にしても、18年は200回を超えていた。普通、シーズン143試合を先発ローテーション投手6人で回すとして、単純計算で24試合。1試合6回投げたとしても144回、7回でも168回にしかならないのだ。

 この20年、21年が今後の野球人生に向けての正念場だと思い、精進を願う。

続きは本書でお楽しみください。