変態家族/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』②

小説・エッセイ

更新日:2020/11/19

オズワルド
オズワルド 畠中悠(はたなかゆう/左)伊藤俊介(いとうしゅんすけ/右)

▶【連載第1回はこちら】オズワルド伊藤のエッセイ連載『一旦書かせて頂きます』/第1回「書くということ」

 なんかこう、生きてきゃ生きてく程大事にしたいなあと思う人間が増えていくんだけども、自分のキャパの狭さもあって、どうしても今一番近くにいる人間のことを最優先にしてしまう。

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 例えばそれ以外の、長年連れ添った仲間だったり、恩人と呼べる方々だったり、正式な血のつながりのある面子だったり。

 大事に決まっているし、恩だの義理だの忘れたわけじゃあないんだけども、どうしてもどうしてもその時一番近くにいる人間のことで頭がいっぱいになってしまうのである。

 

 それが今の自分にとってはルームシェアのメンバー。というか、自分の中では家族に分類される人間達。

 

 長年にわたり、女優である妹の扶養に入っていた小生は、夏に入る頃、楽しそうだし芸人とルームシェアをしてみたいという気持ち96%、そろそろ妹の世話になっている場合じゃないなという気持ち4%の割合で新生活を始める決断をした。

 実家から数えても、同業とはいえ赤の他人と住むことは初めてだった。

 

 今のメンバーと住むことになった経緯はかなり特殊な経緯があった。
今の時代、色々な媒体が渦巻いていて、芸人もそれらを利用して自分達のことを自分達で発信出来るツールは山程ある。

 そのうちの1つがYouTubeであり、我々オズワルドも小さいながらも自分達のチャンネルを持っていて、今のメンバーでルームシェアを始めることになったきっかけもこのYouTube内でのある企画から生まれている。

 それがルームシェア募集オーディションという企画。

 

 うちの社長(相方)は1Kの部屋に芸人3人で住んでいて潜水艦のような生活を送っていたのだが、そのうちの1人が芸人を引退し家を出ていくことが決まった為、新しくメンバーを増やしたいということで募集からオーディションまでを全てYouTubeで配信させて頂いた。

 一般の方からしたら、1Kの3人暮らしに飛び込んで行く感覚なんてわからないだろうしわかりたくないだろうしわからない方が幸せに決まっているのだが、芸人ってのは本当に幸せのハードルが埋まってるもんでして、生きてりゃそれでバッチグー之助ばかりなのである。急な募集にもかかわらず、3名のエントリーがあった。

 

 僕がルームシェアを始めたメンバーのうちの2人は、社長のオーディションで敗退した残りの2名である。僭越ながらモーニング娘。方式をとらせて頂いた。

 ただただひたすらに、どうしようもなく素敵な時間を過ごすことが、結果的に平家みちよに違った未来を想像させるに至ると思った。

 その後、同様の流れでオーディションを行い、4人目のメンバーが決定し、僕の人生初めてのルームシェアが始まったのである。

 

 当初は驚きの連続であった。

 蛙亭の岩倉という女の子は、飯を食ってる最中に寝ちゃったり、家を出る直前に掃除機をかけ始めて遅刻して泣いちゃったり。

 ママタルトの大鶴肥満という165kgの巨漢は、1回も寝返りを打たなかったり、マグロ固めんのかってくらいの冷房の使い方をしたり。

 森本サイダーというロン毛のオタクは、もうなんかずっと1人で喋ってたり。あと、膝裏のイボを切除した際の止血に生理用ナプキンを使ったり。

 

 蓋を開けたら明らかに確実に間違いなく変態大集合ハウスであった。しかも全員別のベクトルで。

 だがしかし、僕は今現在、この変態ハウスが仲良く平和に暮らしていけている要因はここにある気がしてならないのである。

 

 平均年齢30歳。全員ここに辿り着くまでの各々の変態ロードを歩んできた最中に、自分が変態であることには気づいている。

 かく言う僕もまた別の変態ロードを歩んできた1人であるからわかるのだが、気づいてしまってからは本当にしんどい瞬間が多々あった。

 元々あった自分ポイントみたいなもんが、急速なペースで減点されていく。採点者は自分のみであるにもかかわらずである。だって変態だって気づいちゃったから。

 こうなると0点になった時のことを想像して脳溶けちゃいそうになる。

 

 彼らがこんな風に考えてしまった時期や瞬間があったのかは、確認する必要はないし、それ程野暮なこともないので、わざわざ答え合わせをする必要なんてないのだが、それでもなんとなく、本当になんとなく似たようなことはあっただろうなと感じたのだ。

 

 そして、もう1つ共通して言えることは、そういった経験をしているからこそか、僕自身を含むかはさておき、彼らは優しさがわかる。減点を止めてくれて、あろうことか加点までして頂いた時のあの喜びも知っているのである。

 

 だから彼らはとても優しい。優しさがわかるからとてもとても優しい。

 岩倉はとても面倒見がいいし、信じられないくらいちゃんとありがとうが言える。

 肥満はとても僕がわからない色々な知識を教えてくれるし、自前のピザ釜でピザを焼いてくれる。

 サイダーはもうなんかずっと1人で喋ってる。

 要するに、お互いに補って余りあるものなのである。

 むしろ補って余ったものを中心に生きている。

 

 加えて全員芸人であるし、面白いとされることが大好きであるから、お互いの変態ポイントもおかしくてたまらない。

 毎日毎日顔を合わせて、毎日毎日お互い優しい。

 当然僕は、彼らを家族と呼ぶに決まっているのである。

 

 色々な人間に出会い、色々な人間のことを考えたり考えられたりの途中ではあるが、今現在僕の頭の中は、この変態家族のことでいっぱいになっているのだ。

 

 一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019ファイナリスト。

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オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。


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