自己肯定感で大切なのは“質”。健全な自己愛が必要なんです/精神科医Tomyの自分をもっと好きになる 「自己肯定感」の育て方②

暮らし

公開日:2021/1/31

Twitter上で多くの人の不安や悩みを吹き飛ばしてきたTomy先生が、自己肯定感を見つけて育てていく方法を、さまざまなケースから読み解きます。これであなたも、肯定感が持てないパターンと対策がわかる!

精神科医Tomyの自分をもっと好きになる 「自己肯定感」の育て方
『精神科医Tomyの自分をもっと好きになる 「自己肯定感」の育て方』(精神科医Tomy/マガジンハウス)

 人は健全な状態では「自分を肯定しなきゃ」とわざわざ意識することがないわ。健全な状態では「私は〇〇したい」と自分のやりたいことを素直に考え、「〇〇は好きで××は嫌いだ」と素直に判断できているの。自分が自分のやりたいことを考えるときに「自分にはその資格があるかどうか」「他人からどう思われるかどうか」なんて考えちゃいないのよ。だって自分の気持ちなんですから。

 そしてもう一つ大切なポイントはよ。自分を肯定するにしても、質のよい自己肯定をする必要があるわ。それが冒頭でも出てきた「自分のあるがままを肯定する」ということ。

 自分のあるがままを肯定するためには、健全な自己愛が必要よ。ただ、この言葉は誤解が多いのよ。自己愛というと、ナルシスティックなイメージですが、本来の自己愛とは、「自分が自分らしくあってもよいのだ」という感覚です。つまり、これは自己肯定感がある状態とほぼ同じなのよ。

advertisement

 たとえば鏡を見て「私ってきれいだな」とか思うのは、本来の自己愛じゃないのね。そこには「人と比べて美しくなければ自分には価値がない」という前提があります。だからいくら自分に見とれていたとしても、本来の自己愛である「自分が自分らしくあってよい」という感覚とはかけ離れている。「私はなぜかわいくないんだろう」とため息をついている人と本質的に大して違いはないのよ。

 では健全な自己愛をどうやったらもてるのか。実はこれはとても難しい問題なの。健全な自己愛は幼少期の親の態度がつくるんじゃないかと言われているわ。幼少期、子どもは親からハグされたり頭をなでられたりして、「あなたのことが無条件に愛おしい」という感覚を教えてもらいます。

 ただこの時期に何らかの理由で親が十分に子どもにそれを伝えられないと、子どもは「自分のあるがままでいいんだ」という感覚をもてなくなる。

 結果として、「愛されるためには人より優れていないといけない」「愛されるためには親にとって有用な存在じゃないといけない」と考えるようになり、それが不健全な自己愛になってしまうというわけです。

 ちょっと話はずれるけれど、自己愛性パーソナリティ障害というものがあります。パーソナリティ障害は、大雑把に言うと「性格の偏りによって、生きづらさを感じる状態」です。誰でも几帳面な性格、ルーズな性格、怒りっぽい性格などそれぞれの性格があるけれど、パーソナリティ障害の人はそれが極端すぎて生きるうえで困難さを感じるというもの。

 性格のパターンによってさまざまなパーソナリティ障害がありますが、自己愛性パーソナリティ障害もその一つよ。このパーソナリティ障害は、アメリカの精神疾患の診断基準の代表選手であるDSM-5には次のように定義付けられています。

 自己愛性パーソナリティ障害の診断を下すには、以下の5つ以上により示される、誇大性、賞賛への欲求、および共感の欠如の持続的パターンが認められる必要があります。

・自分の重要性および才能についての誇大な、根拠のない感覚(誇大性)
・途方もない業績、影響力、権力、知能、美しさ、または無欠の恋という空想にとらわれている
・自分が特別かつ独特であり、最も優れた人々とのみ付き合うべきであると信じている
・無条件に賞賛されたいという欲求
・特権意識
・目標を達成するために他者を利用する
・共感の欠如
・他者への嫉妬および他者が自分を嫉妬していると信じている
・傲慢、横柄

 自己愛性パーソナリティ障害の方は、自己愛が過剰なのではなく、むしろ健全な自己愛をもてず、結果として他人より優れていると思わなければ生きていけなくなるのね。

 自己肯定できない人も、自己愛性パーソナリティ障害の方も、一見真逆に見えるけれど「健全な自己愛をもてていない」という面では似ているのね。

 ただ不健全な自己愛が本当に幼少期の親の接し方が原因かどうかは証明できるわけでもなく、一つの説にすぎません。でも少なくとも、自己愛というのはそれまでの本人の生い立ちで培われてきた価値観が影響していることは間違いがないでしょう。それをいきなり変えるということは難しいから、「自分のあるがままを認める」っていうのは結構大変なことなのよね。

 でも、それは一つの仮説。自分の過去は変えられませんが、これからの自分は少しでも変えていけるはずです。なので、自分のあるがままを認めるにはどうしたらいいか、ちょっと考えてみましょうか。

 最大の答えは周囲の人間にあるのよ。

 自分のあるがままを認められない人は、自分のあるがままを認められる人を参考にするのが一番よ。

 人間は他人の影響を受けやすく、特に自己肯定できない人は他人の影響を受けやすいわ。

 なぜかというと、自分の軸がないからすぐ他人から見た自分を意識してしまう。つまり周りが自分より優れていると思いやすい。だから、周りの人の考え方や価値観をよく取り入れちゃうのよね。

 たとえばA子ちゃんの例でいきましょうか。A子ちゃんの周りには「ファッションが微妙な人間は、微妙」という価値観の女の子が多かったのよね。そのグループにいるから、自分もそういう価値観になってしまった。

 でもファッションがいけていないと価値がないと信じている時点で、そのグループで一番「いけている」とされている子も、「まだまだ微妙」とされている子も、A子ちゃんも結局みんな自分のあるがままを肯定できていない子たちばかりだったのよ。

 そこで、A子ちゃんは昔からの幼馴染みCちゃんのことを思い出したの。彼女は、自分らしく、マイペースに生きている子で、どピンクの服とか、でっかいキャラものとか「かわいいー」と言っては自分のファッションに取り入れていたの。

 それを買うと周りは「えーーーー、そんなのつけられない」って笑う人が多かったけど、Cちゃんは気にせずファッションを楽しんでた。

 不思議とCちゃんが気に入って堂々と着ると、結構それはそれで魅力があったのよ。

 高校に入り、最近会っていなかったCちゃんにA子ちゃんは連絡をとってみることにしました。

 話をすると、やっぱりマイペースで独特な価値観が面白いCちゃん。でも彼女は自分の生き方を誰とも比較せずに自然と楽しんでいる感じがあった。だからなのか、久しぶりに会ってもあまり疲れを感じずに遊べたのよね。

 その後もCちゃんとときどき遊ぶようになり、A子ちゃんはちょっと生きやすくなったと感じられるようになりました。

 さて、B太郎君はどうでしょう。B太郎君は成績優秀な子のグループにいることが多かったわ。でも、彼は合唱団にも所属していたのよね。合唱団では「歌がうまくなければ価値がない」なんてことはなく、みんなで練習をしてコンクールという作品を作り上げることに価値があった。

 最近勉強一本になっていて、練習にあまり顔を出すことがなかったB太郎君。勉強に支障のない範囲で、また練習に力を入れるようにしてみました。そうすると勉強のストレスも発散できるし、何より「歌を歌うのが純粋に好きな」他の団員の影響を受けて、少しのびのびとできるようになったようです。

 実は、自分を肯定できない人にも強みがあります。

 それは、肯定できる他人がいるということ。

 あなたにとっての憧れの存在を、取り入れればいいのよ。友達でもいいし、家族でもいいし、芸能人、有名人、本などでもいい。「こんな生き方いいなあ」って思える人の近くにいて、まず真似てみる。それが救いになると思うわ。

 さて、自己肯定感についてさらっと述べました。次からはもっと具体的に個別のケースについてひもといていきます。

<第3回に続く>

あわせて読みたい