不動産屋から案内されるのは、異次元すぎるワケあり物件!?『いえめぐり』/マンガPOP横丁㊺

マンガ

公開日:2021/2/5

『いえめぐり』(ネルノダイスキ/KADOKAWA)
『いえめぐり』(ネルノダイスキ/KADOKAWA)

 夢を抱いて上京する女性の家探しドキュメントや、都内の素敵な超高級物件を紹介する企画、そして某大物俳優が細かいところも熱く褒めて進行する探訪モノなど、家を内見するテレビ番組はいくつかあるが、引っ越しや家を買う予定がなくても不思議と見入ってしまう。特に超高級住宅の紹介は、一般住宅では見られない空間が映し出されるわけで、まるで別世界に足を踏み入れているかのようでワクワクする。そんな内見で、あまり自ら進んで行くことがないのが“ワケあり物件”だ。主人公が“間取りが特殊すぎるワケあり物件”へ案内されるマンガが実にワクワクして楽しかった。ネルノダイスキ先生の『いえめぐり』(KADOKAWA)をご紹介したい。

 とある不動産屋を訪れた主人公。部屋数多めで、静かで、駅から徒歩30分以内の物件を希望していた。すると適した物件があるということで不動産屋に案内されたのは、外から見た限りは普通の一軒家。築年数はちょっと経ってはいるものの、小さな庭のある掘り出し物だ。ここまでは良かった。建物の中へ入っていくと、玄関から廊下へ上がる1歩目に、腐っていた床板がド派手に抜けるハプニングが発生。これはこれから始まる内見の予兆か……。というのは、この家は少し問題のある物件だとか。「まさか事故物件?」と主人公に不安がよぎる。まず入ったのは居間。さっそく入り口に問題ありで、腰を落としてしゃがみながら入らなければならない。そして肝心の部屋の中はというと、柱に変な仕掛けがあったり、窓が異形だったりと謎だらけの作り。さらに居間を出て先へ進んでいくと、素晴らしく機能的な部屋があったり、奇抜なインテリアが置いてある部屋があったりと、理解が追い付かない空間の数々が待ち受けていた。これらは前の主人の異常な趣味で作り上げたものだとか。結果、主人公はこの物件は選ばずに次の物件へ向かうのだった。しかしその後もいびつで奇抜なワケあり物件が主人公を待ち受けている。そんな驚きとワクワクで読者の心の部屋を満室にさせる珍物件“奇”行だ。

 描かれる物件のインパクトは一軒目から強烈で、まるで異次元にあるかのような家に次々と案内される。「客と不動産屋さんの初対面の2人が半日にも満たない時間に繰り広げられる、物件という密室と密室の小旅行がとても奇妙で非日常感があり、むしろその小旅行の中で生まれる楽しさを描きたい、という想いを詰め込んだ」と著者があとがきで語っており、その世界観はとてもアーティスティックで見ていて楽しい。マンガではあるが物件によっては展開が一枚絵で描かれ、まるで絵本のような演出もあり、はりま的には老若男女が楽しめる作品としてオススメできる(かなりクセが強いけど)。

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 ここで少し作品から離れるが、風間やんわり先生の『あつし渡辺の探訪びより』(講談社)という、私の中で非常に印象に残っている物件内見マンガがある。タイトルからおわかりになると思うが、冒頭で述べた某大物俳優が視聴者の素敵な住宅を訪問するテレビ番組のパロディ作品だ(ちなみに、その俳優はこのマンガを公認している)。こちらもある意味“ワケあり”なお宅を訪問する内容で、その展開は、方向性は違えど今回の作品と同様に次元を超えてくるのだ。一番スゴイのは基礎しか出来てない家や自身の棺桶! もはや住むという話ではなくなっている。話は戻って今回の作品でも、山の中の地下物件、オカルトな妄想に取り憑かれた鉄壁の物件など、その“ワケあり”の度合いがエスカレートしていき、どれだけ読者を楽しく驚かせるかの大喜利状態。そして最後の物件はまさに本作品の集大成! きっとお腹いっぱいの状態で本を閉じることでしょう。

 最後に、案内された奇抜な物件の中から主人公は最終的にとある物件に決めて終える。しかもかなり丸く収まる感じの結末だ。果たしてどのような物件なのか、約170ページの珍物件“奇”行へあなたも出発してみては?

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう