「じいちゃん」/山中拓也の他がままに生かされて④
公開日:2021/2/26
山中拓也初著書『他がままに生かされて』の刊行を記念した特別短期連載。2月は4回にわたり、本文から抜粋したエッセイを先行配信! 3月以降は本書のスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」を配信予定なので、乞うご期待。
じいちゃん
母方のじいちゃんは、僕が寝転んでテレビを見ていると「寝転ぶな、座れ!」と厳しく注意するような一面もあるが、その一方で僕がやりたいと言ったことは否定せずにやらせてくれるような優しさも持っている人だった。筋が通っていないことは許さない…まさに《漢》。そんなじいちゃんのことを僕はどこか誇らしく思っていたし、じいちゃんに認められたいという気持ちがどこかにあった気がしている。
じいちゃんの楽しみと言えば、テレビで野球観戦をすること。応援するチームが勝てばくしゃくしゃの笑顔を見せ、負ければ自分のことのように落ち込むじいちゃんを見て、「もし僕が野球を始めたら、こんなふうに喜んでくれるやろか?」と幼い僕は思った。こうして小学4年生の頃、僕はそれまで習っていたスイミングをやめ、少年野球へ参加することにしたのだ。
「じいちゃん、俺野球やろうと思うねん」
「おー。おー。ええな! 応援しに行くから頑張れよ!」
応援に来てくれたじいちゃんは、テレビで野球を見ているときと違って、僕のチームが勝っても負けてもくしゃくしゃの笑顔を見せてくれた。大切な人が応援してくれて楽しそうに笑ってくれること、「頑張ったな」と褒めてくれること、どちらも嬉しいという言葉だけでは言い表せない。この気持ちが、野球を続けるモチベーションに繋がったのは間違いない。毎日の練習や試合を経験するうちに、僕自身もどんどん野球が好きになって、近鉄ファンの友だちと野球観戦に行くほどになった。
当時、僕が住んでいたところから一番近い中学校は、毎日のようにパトカーがサイレンを鳴らしてやってくるような学校で、両親からは「さすがに行かせられない。受験して違う学校を選んでほしい」と言われていた。しかし、そのためには中学受験のための勉強をしなければならないし、塾に通うとなれば当たり前だが野球はできなくなってしまう。なにより、野球をやめて勉強をするという姿がどうしても自分の中で想像できない。そんなことよりも野球の大会に出て優勝することの方が、僕にとっては大切なことだった。その気持ちを汲んでくれたじいちゃんは「拓也がやりたいって言うてるんやから、やらせたれや」と母を説得してくれて、僕はなんとか小学6年生まで同じチームで野球をやり続けることができた。
勉強もせずに野球ばかりしていた僕は、当然ながら中学受験などできるはずもなく、県内有数の荒れた中学校へ進学することになる。
辛くて苦しい時は
じいちゃんが見守ってくれてる
って思うと強くなれる
じいちゃん 俺頑張ってるで
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