ソファの上で24時間生活/『運動音痴は卒業しない』郡司りか⑱

小説・エッセイ

公開日:2021/3/1

郡司りか

 ソファの上で24時間生活をしてみることにしました。

 名前の通り、ソファの上だけで1日過ごすのです。ちょうど1時間ほど前に始めたので、私は明日の昼過ぎまで、トイレのとき以外ソファから離れてはいけません。

 

 「制限があるからこそ楽しい」というのは殆どの人に共通する真理なのでしょうか。

 幼い頃に100円という縛りの中で選ぶお菓子は自分にとって非常に価値が高かったし、なにより選ぶ過程がとても楽しかったです。もし…今お金を無限に手にいれたら、どんな買い物も楽しくなくなるかもしれないですね…。急に心配になってきました。(全く必要のない心配)

 

 おっと、そんなこんなで、夜ご飯の時間になりました。(まさか寝てた?)

 

 お昼はマクドでハンバーガーをテイクアウトしていたので、ソファの上でも難なく食べられましたが、夜は自分で作らなければいけません。

 ここで、炊飯器の出番です。

 私は24時間が始まる前に、生活に必要なものを片っ端からかき集めてソファの周りに置いておきました。炊飯器もそのうちの一つです。

 中にはホカホカに炊けた白米が詰まっています。これをどんぶりによそって、クーラーボックスの中からウニを出します。夜ご飯に必要な食材もソファの下のクーラーボックスの中に入れておきました。ウニもそのうちの一つです。

 炊き立てのご飯にふるさと納税のウニを乗せるともう甘美。大人の至福。嗜好品の極みです。一口食べるとウニがほろりと崩れて、海の匂いが鼻から抜けます。一瞬でソファが海水浴場になりました。

 そういえば、中学の英語の授業で「カウチポテト」という言葉を習ったけれど、あれは良い言葉だったな。意味はそのままで、カウチ(ソファ)の上でポテトを食すということです。今はカウチウニだな。

 さて、早めの晩御飯から4時間経ちました。

 暇だ。

 やってることはいつもと変わらず、いつもと同じ部屋でひたすら仕事をしたり読書したりアプリゲームをしてるだけなのに、なんだか精神的にしんどい。違うのはソファの上というだけなのに、なんともまあモヤモヤが晴れない。

 これはアレだ、孤独感だ!! 世界に取り残されている気がして寂しい!!

 孤独を癒したいが故に愛犬をケージから出すと、私がソファから降りられないことをいいことに全く言うことを聞きません。iPhoneのケーブルを引っこ抜かれたけどなんとか捕まえました。(最悪だ…)

 日課である犬の歯磨きを終えたところで、自分が歯磨きをできないことに気がつきました。

 

 どうしよう。犬用歯磨きシートを使うか…使うか…。つか…わない!使わない!(危なかった)

 念入りにガムを噛んで寝ることにします。

 朝起きたらめちゃくちゃ腰が痛かった。ただでさえ狭いソファなのに、お腹に犬を乗せて寝てしまったからです。エコノミークラス症候群にならないように独自のラジオ体操をします。朝ごはんは、使ってないお茶碗が1つだけ残っているのでそれに冷めたご飯をよそって梅干しで食べました。

 タイムリミットまで残り5時間。孤独を感じないようにテレビをつけておくことにします。ここまでソファの上で暮らしてみてわかったことは、制限がほしかったり自由にしたかったり、人間ってのは贅沢だなということです。これって私だけかな?

<第19回に続く>

プロフィール
1992年、大阪府生まれ。高校在学中に神奈川県立横浜立野高校に転校し、「運動音痴のための体育祭を作る」というスローガンを掲げて生徒会長選に立候補し、当選。特別支援学校教諭、メガネ店員を経て、自主映画を企画・上映するNPO法人「ハートオブミラクル」の広報・理事を務める。
写真:三浦奈々