文章から伝わる「世界の美しさ」に、元気をもらおう。『物語のなかとそと』/佐藤日向の#砂糖図書館⑯

アニメ

公開日:2021/5/1

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像や舞台でも活躍を繰り広げる佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本やマンガから受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

佐藤日向

私は学生時代、国語のテストの読解問題に登場する物語が楽しみだった。

長編の一部が抜粋される時もあれば、短編が出題される時もあり、続きが気になるなぁと思いながらもそこで別れてしまった物語もあれば、続きを授業で読んだこともあった。

 

授業で出逢った物語達は、自分で選んだ作品じゃない分、今も私の中で色濃く残っているのだと思う。

advertisement

 

中でも、心に残った短編の作品がひとつあり、初めて先生に作家さんの名前を聞きに行った。

今回は、私にとって思い出深い、江國香織さんの「物語のなかとそと」という散文集を紹介したいと思う。

 

本書は「書くこと」「読むこと」「その周辺」の三つのパートに分かれていて、
短編とエッセイが入り混じっているため、不思議な感覚にとらわれる。

 

まず1ページ目を開いて「あぁ、これはあの時先生に聞きに行った、江國香織さんの作品だ」と気づいた瞬間、ワクワクが止まらなかった。

 

江國さんが紡ぐ文章はとてもみずみずしくて、文字達を目で摂取することで身体が元気になっていくような感覚になる。散文集ということもあり、沢山の短い物語やエッセイが詰め込まれているのだが、美味しいところだけを集めたような贅沢感があり、終始書いてある言葉が愛おしくなりながら読んでいた自分がいた。

 

特に私が好きだった言葉は「自分と自分以外のものがつながったとき、世界はいきなりひらけます。これは本当です。それまでは、ただじっとしていてもいいの。ただし目はちゃんとあけて、耳を澄ませて、体の感覚を鈍らせないように。」という、『食器棚の奥で』に登場する江國さんの言葉だ。

 

中学の入学式で、「夢なんて叶わないから夢を見るのは諦めなさい」と大人に言われた。

その当時、既に私は芸能の仕事をしていたから、「夢は努力の量に比例して叶う確率が上がるのに、なんて可哀想な大人なのだろうか」と思ったことがある。

 

だが、夢を叶えるというのはすごく難しく、ゴールがないダンジョンに挑み続けなければいけないのだと、最近は感じる。

 

だからこそ一歩立ち止まる時間すら無駄にせず、立ち止まっているからこそ客観的に周りをじっくり観察し、良い影響を沢山受けて、いざ自分が動くときに備えることがいかに重要なのかが、江國さんの言葉から分かる。

 

今の状況下で、少し考え方が卑屈になってしまったり、予定されていた公演が延期や中止になったりと暗い気持ちになってしまいがちだが、江國さんのように、自分の目や耳で感じたものを素直に受け止め、自分の中に住む言葉達で言語化できるような生き方を心がけたいと、本書を読み終えたあとで強く思った。

 

そのために私はきっとこれからも学び続けることを選ぶだろうし、もっと遠い先の未来に自分が納得のいく言葉で物事を語れるように沢山の知識を身につけるよう努力していきたいと思う。

江國香織さんの瞳を通して描かれた、世界の美しさを感じで頂きたい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。