苦しい時に逃げることは、恥ずかしくない。立ち返る原点と感謝の気持ち『罪の余白』/佐藤日向の#砂糖図書館⑳

アニメ

更新日:2021/6/26

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像や舞台でも活躍を繰り広げる佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本やマンガから受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

佐藤日向

先日、父の日に日々の感謝の気持ちを伝えるべく連絡をしたが、ここ最近はコロナの影響で舞台やライブに足を運んで貰う機会がめっきり減ってしまい、以前より連絡を取る回数が減っていることにふと気がついた。

幼稚園の頃に自主的に芸能活動をやりたいと言い出した時から「何事も経験は大事だ」と言って、私の気持ちを今に至るまで父が尊重してくれたから、私はこうして芸能活動を出来ている。私の父はこのダ・ヴィンチニュースでの連載も毎回楽しみにしていてくれて、様々な形で私の活動を見てしてもらうために頑張ろうと思える。

今回紹介させて頂くのは、芦沢央さんの『罪の余白』という作品だ。

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本作は、主人公の娘が学校の4階から飛び降りる瞬間のモノローグから始まる。
そこから各登場人物の視点で日記風に彼女の飛び降りはいじめが原因の自殺だったのか、はたまた殺されたのか、という話が展開されていくのだが、加害者側(いじめていた同級生)の心情が救いようがないほどのクズっぷりを見せるのに、人は切羽詰まると言い訳に言い訳を重ねてしまうんだよな、と妙に納得させられてしまった。

本作の序盤で、主人公の娘を同級生が直接手で突き落としたわけではないが、罰ゲームという形で手摺りに立たせたのは犯罪にならないのか、という疑問が投げかけられるが、私は今の自分の語彙力ではどちらが悪いと明言出来ない難しさに気がついた。どう考えたっていじめていた側が悪いのだが、足を滑らせて飛び降りてしまったのは主人公の娘であることも事実であり、「ついノリで」と言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。

そうなってしまう前に環境を変えるという手段をとるのは、私は逃げでは無いと思う。だが、実際にいじめられていると、世界がそこだけのような気がして、我慢しなければならない、と、どうしても思ってしまうのだ。

私も、芸能活動があってあまり学校に行けていなかった中学時代、母と校長先生に呼び出された時、初めて自分がいじめられている事を知った。私が昔から少し鈍感で、あまり周りの言動を気にしなかったこともあるが、一番は芸能の仕事現場という「学校以外の居場所」があった事が大きいと思う。自分の好きな事を出来る場所があって、頑張れば認めてくれる人がいるのはすごくありがたいことであり、自分の支えになる。

作中で加害者の親が「普通が1番いいのよ。普通じゃないってことは不幸なことなの。目立てば足を引っ張られるし嫌われる。」と言い聞かせる場面があるが、私の両親が今こうして私が活動を続けていることに対して否定的でないのは奇跡なのだ、と感じた。この職業が誰よりも目立つのだということを忘れず、私も誰かの心に響く言葉を届けられるような人になりたい、と心から思える作品だった。苦しい時に逃げることは恥ずかしくないのだと、この作品から感じてもらいたい。

そして、こうして20冊も自分の書評を掲載して頂けている事に、嬉しさと感謝の想いで胸がいっぱいです。読んでくださり、ありがとうございます!

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。