どれほど有能で聡明でも、なければ失格。マネジャーに必要な唯一の資質とは?/新訂 まんがと図解でわかるドラッカー⑤

ビジネス

公開日:2021/7/31

藤屋伸二:監修、nev:イラストの書籍『新訂 まんがと図解でわかるドラッカー』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第5回です。ベストセラームック『別冊宝島 まんがと図解でわかるドラッカー』の内容を書籍として大幅改訂! 経営の神様・ドラッカーの理論を事例と60のキーワードとともにひもといていきます。マネジャーには人を動かす以前に必要不可欠な資質がある!? マネジャーの仕事の本質を考えてみよう。

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新訂 まんがと図解でわかるドラッカー
『新訂 まんがと図解でわかるドラッカー』(藤屋伸二/宝島社)

人を導き、成果をあげる
マネジャーに必要な「正直さ」と「誠実さ」

ドラッカーの言う「マネジャー(manager)」とは当然、野球部の〝マネージャー〟ではなく、部署を統括する管理職のこと。その仕事の本質を考えてみよう。

和訳 人の上に立ち、人を動かす技術は学べる。だが、それらをすべて実行してなお、マネジャーに求められる基礎的な資質がある。それは高潔な人格だ。

原典 One can learn certain skills in managing people… But when all is said and done, developing men still requires a basic quality in the manager… It requires integrity of character.
— Management: Tasks, Responsibilities, Practices —

マネジャーとは組織を組織として機能させる人

 マネジャーとは、自分の部署の成果に対して責任をもつ人のこと。つまり、ドラッカーの言うマネジャーは、人に命令する組織の「ボス」の側面よりも、会社に対して貢献する責任をより大きくもつという側面のほうが重要である。

 たとえば、専門分野に詳しい専門家の仕事は、全体の成果に結びつけるために方向づけをしてやる必要がある。

 タコツボに閉じこもって専門用語を使いたがる彼らに対し、情報共有の重要さを認識させ、専門家たちのアウトプットが社内のほかの人たちのインプットになるようにマネジャーは翻訳する必要がある。

 マネジャーに求められる任務は主に2つ。第一に、生産性が高まるように自部署を導くこと。オーケストラの指揮者のような役割だ。指揮者は各パートの演奏家(専門家)に働きかけ、仕事(演奏)を統合し、作品を創造する。重要なのは強みを活かし、弱みを意味のないものにすることだ。第二に、現在と未来、短期と長期の両面からリスクの種類と大きさを判断し、リスクを最小限にとどめること。たとえば、現在の顧客や成果を重視するあまり、将来の変化を見逃して波に乗り遅れてしまう、といったことにならないようにする。

マネジャーに必要な資質は「高潔さ」だけ

 ドラッカーいわく、マネジャーに特別に必要な資質は「高潔さ」だけ。ときに「真摯さ」とも訳されるこの言葉はintegrityで、「正しいと信じることに対して正直であり、誠実である」こと。いつも仏頂面で気むずかしくても、信念があって志が高く公正な判断ができるなら、その人物にはマネジャーの資質がある。何を言うかより、どんな行動を示すのか。組織のトップやマネジャーが目標に対して誠実に振る舞うことで、成果のあがる組織文化は育まれていく。

 逆に、いかに愛想がよく、有能で聡明でも、誠実でない人はマネジャーとしては失格だ。

新訂 まんがと図解でわかるドラッカー

ドラッカーのツボ
マネジャーとは個人の強みを引き出し、組織の成果に責任をもつ人。大前提として、高潔であること。

経営管理者に必要な4つの基本スキル
優れたマネジメントに求められるもの

経営管理者に必要なスキルとして、ドラッカーは意思決定、コミュニケーション力、管理・監督、経営学の素養の4つを重要視している。自己成長の指針にしよう。

和訳 効果的な意思決定を下すに前に問うべきは「本当に決める必要があるのか?」。選択肢には常に「決定しない」があるからだ。

原典 There is one question the effective decision-maker asks: “Is a decision really necessary?” One alternative is always the alternative of doing nothing.
— Management: Tasks, Responsibilities, Practices —

意思決定は「問題は何か」を知ることから始まる

 マネジメントで最も重要な仕事は意思決定だ。それは「組織に生じた問題をどのように解決するのか決めること」を意味する。

「問題」には売上げの下降、コスト比率の上昇、人材の不足、在庫の不足、納期の遅れなどいろいろあるが、これらをどのようにして乗り越えるのかを決めることが経営者の仕事なのだ。

 ただし、意思決定の前に「決めるとはどういうことか? どんな過程で行われるべきなのか?」という問いも大切にしなければならない。そのために重要になるのは、問題そのものについて注意を払うこと。問題のとらえ方次第で、解決策は違ってくる。問題設定を誤った状態では、どのような解決策でも成果はあがらない。それどころか損失になってしまう。

経営管理者に求められるスキル

1 意思決定を的確に下せる
・問題の正体を明らかにできる
・意見の対立をうながし、選択肢を見極められる
・異なる意見を吟味し、その理由と価値を評価できる
・意思決定すべきかどうかを判断できる
・行動に移すことができる

2 上司としてのコミュニケーション力をもつ
・受け手の能力の範囲内の表現で伝えられる
・受け手が期待しているものを見極めることができる(それに沿うか、あるいは意図的に反対のことを伝えてさらに注意をうながす)
・要求を明らかにする。コミュニケーションは単なる情報交換ではなく、人を動かす手段である

3 チェック体制を構築できる
・「 どのようにチェックするか」は主観で変化する。「何をチェックするのか」を決めることが重要
・仕事のチェックは成果を基準に行う。そして会社の成果は、顧客に果たした貢献の度合いによって決まる
・定量化できること/できないことは、どちらもチェック対象であり、しばしば後者のほうが重要である(優秀な人材を引き留める、モチベーションを高める、など)。その手段を常に検討する必要がある

4 経営学の素養がある
・仮説を検証する
・取り組むに値する問題を発見する
・早急に答えを求めず、選択肢を用意して考える
・原理原則にとらわれるよりも個別の理解に力を注ぐ
・以上をくり返し、純粋な経営学と現実とのギャップを埋める努力を続ける

コミュニケーションは情報交換ではなく手段である

 コミュニケーションとは、単なる情報伝達ではなく、「こちらの期待どおりに人に動いてもらうための手段」のこと。

 人間は自分が期待することしか聞かないという性質がある。その現実を理解したうえで情報を伝えなければならない。

 会社はそのために、受け手(社員)にコミュニケーションの受け皿をつくってやる必要がある。それが自己目標の管理だ。「会社はどんな貢献を望んでいるか」を経営管理者=上司が部下に示し、理解を共有して初めてコミュニケーションは動き出す。こうして目標への貢献を求める経営が浸透すると、経営管理者も自己の動きをいかに貢献につなげるか、という意識で仕事を見直せるようになる(経営管理者の管理)。

Keyword コミュニケーション
コミュニケーションは、共通言語と共通理解の上にのみ成り立つもので、成立するかどうかは受け手次第。相手のわかる言葉で、関心を引くように、要求すべき内容を明らかにして発信しなければ、人は動かない。人は自分が聞きたいと期待していることだけを聞く生き物である。そこで仕事で人を動かすコミュニケーションを行うには、目的・目標・進捗状況などの情報の共有化が必要だ。

目標〝を〟管理するのではなく目標〝で〟管理する

 動き出した仕事が期待をどの程度満たしたのかを検証し、修正するチェック体制(管理・監督)は、ここで初めて意味をもつ。目標管理でなく、目標による経営が可能になってくるのだ。そのためにも「何を評価するのか」「どのように評価するのか」はオープンにしておくこと。

 経営学の素養とは、理論的なアプローチで具体的な問題解決を図れる能力のこと。①仮説の検証⇨②問題の特定⇨③代替案を複数検討⇨④最善案を選択、というように、合理的かつ具体的に問題に向き合える力が必要だ。

ドラッカーのツボ
問題を理解することに十分注意を払い、そのうえで他のスキルを活用する。

<続きは本書でお楽しみください>

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