死を受け入れた患者たちは、なぜ“本当の強さ”を得ることができるのか?/あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる
更新日:2022/7/20
患者さんと向き合う中で、人の弱さこそが人を強くすると学ぶ
そうしたお手伝いをする中で、私は多くのことを学びました。
特に強く感じたのは、「はじめに」でもお伝えしたとおり「人の弱さこそが、人を強くする」ということです。
老いや病気などにより、この世を去るときが迫ってくると、人が自分の力でできることはどうしても限られてきます。
さまざまな意味で、人生でもっとも弱っているときだといえるかもしれません。
ところが、そのような状態にあっても、というより、そのような状態だからこそ、弱さから生まれる本当の強さを身につける患者さんがたくさんいらっしゃるのです。
まず、心から人に感謝できるようになります。
たとえば、以前、次のような患者さんに関わったことがあります。
その患者さんは、高校を卒業してすぐに銀行に入行。
「この社会は弱肉強食だ」と考え、家族のことも顧みずに仕事に打ち込み、「お金を返せそうにない人や企業には、絶対に融資をしない」という厳しく、ときには非情な仕事ぶりで成績を上げ、大学卒の同期よりも早く支店長になったそうです。
ところが、50歳をすぎたころ、肺がんであることがわかり、状況が一変。
進行が早く、治る見込みがなかったため、緩和ケアを受けることになりました。
最初のうち、彼は非常に苦しんでいました。
かつて「仕事ができない人間は、銀行にとっていらない存在だ」と考えていた自分が、今では仕事ができないどころか、人に助けてもらわなければ、日常生活を満足に送ることもできない。
彼は「今まで頑張ってきた自分が、なぜこんな理不尽な目に遭わなければいけないのか」という怒りを、しばしばご家族や在宅診療のスタッフにぶつけていました。
しかし、献身的な介護を受けつつ、自分の人生を見直すうちに、彼は「どんなに高い地位や多くのお金を手に入れても、あの世には持っていけない」「自分は今まで、ないがしろにしていた家族や、『仕事ができない』とバカにしていた同僚に、実は支えられていたのだ」と気づいたのです。
やがて彼は、周囲の人への感謝を口にするようになり、私にも「病気になったおかげで、大切なことに気づき、それを家族や同僚にも伝えることができました。今はこんな体ですが、私はとても幸せです」と言ってくれました。
ホスピスの現場で、たくさんの奇跡を目撃して
ほかにも、弱さを認め、受け入れることで、人はさまざまなことに気づき、さまざまなものを手に入れます。
本当の強さとは何か、本当の自分らしさとは何かを知り、自分の弱さだけでなく、他人の弱さも受け入れられるようになるのです。
ホスピスの現場では、毎日のように人が亡くなります。
しかし、そこにあるのは別離の悲しみや喪失感だけではありません。
たくさんの奇跡が起こります。
私は今まで何度も、究極の苦しみ、究極の弱さの中で、患者さんが本当の自分らしさを取り戻し、強く生きていく姿を見てきました。
そして、私が見てきたこと、学んだことはきっと、今、さまざまな苦しみを抱えているみなさん、幸せになりたいと願っているみなさんにとって、前を向いて生きていく力になるのではないかと思っています。