人気作家初のエッセイ集は、唯一無比の読み心地! 有川浩インタビュー

有川浩

2016/2/5

『図書館戦争』の続編や『レインツリーの国』、6月公開の『植物図鑑』と、自作小説の実写映画化が相次いでいる有川浩。「この一作を書くために作家になった」と公言していた長編小説『旅猫リポート』は来春、英国trans world社より翻訳出版されることも決定した。
 彼女のモットーが、初めてのエッセイ集のタイトルにもなっている「倒れるときは前のめり」だ。たとえ失敗したりつまずいた時も、前に進もうとし続ける! 実はこの言葉、2004年2月にライトノベルの新人賞「電撃小説大賞」の大賞受賞作でデビューするより前、初めて外部メディアで執筆したエッセイの一編に、既に書き込まれていた。作家自身も驚いたそうだ。

取材・文=吉田大助 写真=山口宏之
イラスト=ほしのゆみ

 

有川 浩

ありかわ・ひろ●高知県出身。2004年、第10回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作『塩の街』でデビュー。06年に開幕した「図書館戦争」シリーズ(全6巻)でブレイク。その他の著作に、実写化された『県庁おもてなし課』『空飛ぶ広報室』『三匹のおっさん』『レインツリーの国』など。今年6月4日(土)に『植物図鑑』が実写映画化、全国公開予定。

「編集さんに“今まで書いたものを集めたエッセイ集を出しませんか?”と声をかけていただいたのがきっかけで、デビュー直前の心境を綴ったそのエッセイを、十数年ぶりに読み返したんです。“こんな昔にこの言葉を書いてたのか!”と。たぶん、作家としての私の根幹にあるマインドの部分は、デビューした時となんにも変わってないんです。高知県産“はちきん”って感じです(笑)」

 言いたいこと、言うべきだと思ったことははっきり言う。新聞社からの依頼を受け、社会問題をテーマにしたエッセイを綴る機会も多かったが、はちきん=男勝りで男前な書きっぷりは痛快だ。

「自分でもびっくりしたんですが、最初の頃からお金の話ばっかりしてますよね(笑)。“小説家は商売人だ”と、昔っから書いている。私の場合、書いただけでゴールではなかったんですよ。書いたものを出版社さんと一緒に本にして、本屋さんに託して、読者さんに届ける。その結果、どれくらいの利益が出たのか数字を知る。私にとって作家の仕事は、そこまで含むものなんです」

 痛快さの裏には、しっかりした論理とともに、他者を思いやる優しさが宿る。例えば東日本大震災発生直後のエッセイで、〈自粛は被災地を救わない〉。経済が停滞せず回ることがゆくゆくは、復興費用に繋がる。不況が長引く出版文化については、読者にこんな言葉を紡いだ。〈あなたが新刊書店で一冊本を買ってくださるたびに、出版業界は未来へのご支援を賜っている〉。

「最近、遅ればせながらツイッターを始めたんですが、きっかけは“本を買うということの意味”を読者さんに届けなければと思ったからでした。本を買うことが、未来の本への投資になる。今後はこのエッセイ集でますます“商売人キャラ”がつくと思うので……お金の話、さらにバシバシ発信していきたいと思います(笑)」

 

 

ときめきって大事 体を使うことって大事

 ブックレビューを集めた章では、当時「アイドルが書いた小説」と色眼鏡で観られていた加藤シゲアキのデビュー作『ピンクとグレー』を力強く称賛した。映画レビューの章では、『HK変態仮面』のことを、おそらく日本で一番絶賛(笑)。この一冊には、有川浩の「好き」がたくさん詰まっている。

 誰かを「好き」になる気持ちについても、恋愛小説に定評のある有川ならではの表現で綴っている。〈恋愛──官能というものは、何回経験しても初恋に戻ってしまうものだと思います。何故なら同じ形の恋は一つもないから〉。〈みんなみんな、最後の恋にたどり着くまで転んでも負けるな!〉。その大事さを最近、改めて感じたと教えてくれた。

「岡田准一さんのご招待でV6のコンサートに行ったんです。ステージの皆さんが“60代の人?”って客席に呼びかけたら、結構な数のリアクションがあったんですよ。ものすごく素敵だなあと思ったんです。おばあちゃんになってもときめいていることって大事だよね、誰かに恋してなきゃダメだよねって。おじいちゃんおばあちゃんになってから、最後の恋を見つけてもいいじゃないって思うんです」

 このエッセイ集は、作家生活12年間のドキュメントとしても楽しめる。過去に発表してきた小説がどのようにして生まれたか、通常の「創作秘話」とはちょっと違った記述スタイルで記されている。

「フィールドワークの記録、ですかね。作家になりたいのにデビューできなかった頃って、頭で考えて書いていただけなんですよ。実際にデビューしてみたら、体を使って書いている。今はネットを使えばなんでも便利に調べることができちゃうけど、現場へ赴いて取材をして、生身の人と出会って、自分の体という優秀なセンサーを使って実際に感じ取ったことを元に小説を書く。小説を書くかどうかに限らず、“体を使うことって楽しいよ”って、伝えられたらいいなって思います」

 作家を勇気づけた大きな出会いと、別れについても記されている。名俳優にして名書評家、2011年5月に逝去した児玉清だ。実は東日本大震災が起こったその時、有川は児玉と対談をしていた。

「児玉さんが直に会った作家って、私が最後だったかもしれません。だとしたら、最後にお会いした時の様子をお伝えする役目があるなと思いました。児玉さんは全ての本読みにとって、全ての作家にとっての偉大なお父さんでもあったと思うんです。お父さんと最後にお会いした時、こういう感じでしたって……。文章にすることで、私の本の中に残っていていただきたかった」

 最後の章では、愛する故郷・高知にまつわるエッセイが集まった。作家になる前の人生でも、作家になってからの人生でも、どれかひとつの出会い、どれかひとつのピースが欠けていたら、今の自分はいない。「人生、感性、価値観。私の全部が、ここに入っています」。

 その「全部」を使うと、どんな小説ができあがるのか?「作家」と「作品」とのナチュラルな繋がりは、本書巻末に初収録された2本の短編小説を読むことで、確かめることができる。この一冊は、通常のエッセイ集の範疇にとどまらない、特別な感動が味わえる。

「この本を最前線で売ってくれる書店さんを、ひとりで戦わせてはいけないと思っています。まずは売れる商品を、彼らの武器になる商品を作る。そして、私のできるやり方で援護射撃をする。“本屋さんを応援しよう!”と思ってもらえたら嬉しいですね。その応援は巡り巡って、未来の本への応援にもなりますから」

ゆみぞう イラスト

本文内の挿絵も手掛けているゆみぞうこと ほしのゆみさんからのメッセージ