【ダ・ヴィンチ2015年6月号】今月のプラチナ本は『MUJIN〜無尽〜』

今月のプラチナ本

公開日:2015/5/7

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『MUJIN〜無尽〜』岡田屋鉄蔵

●あらすじ●

江戸の終焉、幕末の動乱期に生きた隻腕の剣士・伊庭八郎。「伊庭の小天狗」と呼ばれたその男は、意外にも病弱で学問好きな少年だった─。子分・鎌吉との壊れぬ信頼関係、厳格な父の優しさと愛情、親友・小太郎との出会い、妓との恋愛……。小さく、細く、病弱でふてくされていた九つの少年は、いかにして天下に名を馳せるまでになったのか。『ひらひら 国芳一門浮世譚』で話題を呼んだ時代劇マンガの名手・岡田屋鉄蔵が迫真の筆致で描く、うねる時代の息吹と共に歩んだ剣士の一代記。

おかだや・てつぞう●2007年『タンゴの男』でデビュー。10年に『千』を発表後、時代劇ジャンルに活動の場を広げる。11年、国芳一門を題材にした『ひらひら 国芳一門浮世譚』を発表、文化庁メディア芸術祭推薦作品に選出され、話題を呼んだ。現在、集英社『グランドジャンプ』にて『口入屋兇次』を、少年画報社『ヤングキング アワーズ』にて『MUJIN〜無尽〜』を連載中。

少年画報社ヤングキングC 630円(税別)
写真=首藤幹夫
advertisement

編集部寸評

 

刀を握る手に込められた、思いの物語

隻腕の剣士として名を残した伊庭八郎。カバーではまだ両腕の彼が、片腕を失うまさにその瞬間から物語の幕は開く。この大胆かつ血みどろなイントロに度肝を抜かれ、激しい剣劇が展開されていくのかと思いきや、時は一気に彼の少年期へと巻き戻される。病弱な「死に損ない」でありながら、高名な道場の嫡男。屈折した立場にある彼がいかに刀を取り、何と戦っていくのか。親と子を、そして男たちの友情を描く人間ドラマであり、剣劇よりも、その剣に込められた〝思い〟をこそ描き出す作品だ。圧倒されるのは、密度高く練り込まれたセリフ。熱い思いはもちろん、ふとしたときに見せる優しさやユーモアも活き活きと伝わり、時代がかった言葉を織り交ぜながらも読みやすい。そして思わず音読したくなるリズムの良さ。時代小説ファンにも、ぜひこの〝文体〟に触れてみていただきたい。

関口靖彦 本誌編集長。読み終えて「あれ、まだ1巻だけなのか」と不思議な感じがしました。少なくない登場人物がそれぞれに思いを語り合う様が、たった1冊に収まっているとは。ものすごい密度です

 

その気力が色っぽい

伊庭八郎。恥ずかしながら知らなかった。隻腕のイケメン天才剣士。片腕を失うことになった冒頭のエピソードも凄まじく一気に引き込まれた。病弱だった幼年期に鎌吉と出会って寿司をおごってもらったときも、気力だけはあって、そこになんとも愛おしさを感じる佇まいの八郎。全編に男の色気が半端ない。吉原で浮名を流したというだけあって後半艶っぽい話も出てくるが、むしろ苦悩に歪む表情や額に汗して竹刀を振り続けるその姿にグッとくる。八郎の父親や料理人の鎌吉、兄と慕う中根淑など、彼を支えるまわりの人物も個性的で、彼らとのやりとりも実に清々しいのだ。冒頭で見せたような激しさと並々ならぬ精神力は、今後、彼がどんな人生を歩むことで培われていくのか。グルメとしても知られた人なので、今後江戸の食べ物ネタも随所に差し込まれてくることと。2巻以降も楽しみ。

稲子美砂 又吉直樹さんの連載『第2図書係補佐外部活動』が今月最終回。遠藤周作さんの『深い河』に絡めてご自身の原点につながるいい話をしてくださっています。次号又吉特集も40P超。乞うご期待

 

幕末の男たちに惚れる! 清々しい幕末エンタメマンガ

歴史に疎い私は、幕末の剣士・伊庭八郎のことを全く知らなかったのだが、読み始めるなり、すっかり虜に。八郎が、少年から青年へと成長していく過程を描いた1巻。脇を固める魅力的なキャラの中でも、八郎と彼の父・伊庭軍兵衛秀業が風呂場で父子で語り合うシーンは泣けた。八郎が父に憧れ、この父のように強くなりたいと願うのが自然の流れであったことがよくわかる。岡田屋鉄蔵さんといえば幕末の奇才浮世絵師・歌川国芳を描いた『ひらひら 国芳一門浮世譚』が私は好きで、やはり登場人物たちに惚れ惚れした。岡田屋マンガのいいところは、歴史薀蓄など知らなくても存分に楽しめるところ。キャラクターが本当に生きて隣にいるように感じる臨場感がある。ぜひ彼らとともにこの時代の空気に触れ、疾走してみてほしい。あと、出てくる食べ物がすごく美味しそうで食べたくなります!

服部美穂 7月号第2特集「『海街diary』特集」のため、綾瀬はるかさん×長澤まさみさん×夏帆さん×広瀬すずさんの座談会取材と撮影をしました! 奇跡の四姉妹座談会、是非お楽しみに!!

 

本当の強さとはなにか

江戸四大道場「練武館」の八代目の嫡男として生まれた病弱な少年・八郎が、隻腕の天才剣士と呼ばれるほど強くなったのはなぜか。幕末を生きた伊庭八郎の物語の幕開けとなる1巻だが、左腕を負傷する冒頭から圧倒的で、少年時代の八郎が剣に目覚めた場面では思わず息を呑んだ。「常に己に問うのだ その心の有り方を/何が義で何が不義か見定める心眼を培え」八郎に向けた父の言葉は、現代の私たちへの教戒のようでもある。激動の幕末を生きた男たちの強さに、胸が熱くなった。

重信裕加 10年間いた『ダ・ヴィンチ』を今月号で卒業します。ありがとうございました。この先の10年に向けてしっかり充電します!

 

天才剣士への成長を見守りたい

鎌吉がふらふらの八郎を見かねて寿司を食べさせる、二人の出会いのシーンがすごく好きだ。「幕末を生きた隻腕の天才剣士」の物語なのだから、もちろんこのシーンは重要でありつつも長々と描くところではない……のはわかっている。ただあまりにも八郎がかわいいので(笑)。なんなら鎌吉が八郎に江戸の庶民のおいしい食べ物を食べさせまくって元気に成長していく番外編とか、今後どこかで描いてくれないだろうか……とひそかに願いつつ、2巻を楽しみに待ちたいと思う。

鎌野静華 好きなサッカークラブの監督が、今季限りでクラブを離れるというニュースを見て、泣きそうなほど衝撃を受ける自分に驚いた

 

したたる男たちの心意気

装丁に惹かれ手にし『ひらひら』の岡田屋さんが伊庭八郎を!(伊庭の名は聞いたことある、くらいだけど)とわくわくして買って大正解。男たちの心意気がもう溢れんばかりにしたたりジューシー。キャラクターも、マンガとしての手法も、活き活きと骨太で色っぽく格好いい。友人らとの関係にも悶えますが、やはり父とのやり取りにぐっとくる。病弱だった八郎を「誇りの息子」と語る風呂場シーンが最高。元服し「技と信念」を説くところも。そんな父が1巻最後で……! ぜひ読んでください!

岩橋真実 異動でダ・ヴィンチを離れます(涙)。最後に朝井リョウ特集が担当できてよかったです。8年間ありがとうございました

 

絵で魅せるマンガのパワーに絶句

冒頭すぐに訪れる衝撃的なシーンで、まず呼吸を忘れた。敵に切られ皮膚一枚で繋がる左腕を自ら噛みちぎり、相手を返り討ちにする表情たるや鬼気迫る豪傑ぶり。病弱少年がいかにしてそこまで成長するのか、有無を言わさず「知りたい。読みたい」と思わせる力を感じ、肌が粟立った。第一の子分・鎌吉をはじめ、周囲の大人や同世代の友との出会いが、徐々に八郎を”心の芯の部分”から強くしていく。その様を垣間見る第1巻。今後どんな生き様を見せてもらえるのか、楽しみである。

地子給奈穂 この春からダ・ヴィンチ編集部に仲間入りしました。読みたい本がどんどん増えていく毎日です

 

強さの価値と美男子の宿命

江戸を代表する武家に生まれながら病弱で、家柄と頭脳の明晰さから友と呼べる存在もない。そんな八郎を救ったのが町人・鎌吉との出会いだ。1巻で描かれる身分を超えた二人の絆は、まさに江戸の光と影から生まれたもの。八郎が晩年に片腕を失っても強くあり続けられた理由がここにある。また何と言っても八郎が美しい。ちょん髷にムキムキの肉体。あの岡田屋さんが描くのだから間違いない。食の描写や遊郭など、江戸の文化も華々しい。バラエティ豊かな八郎の幕末をお楽しみ下さい。

川戸崇央 今月の「走れ!トロイカ学習帳」。テーマは紙です。和紙職人を訪ねて宮城県へ。白石う〜めんを2日連続で美味しく頂く

 

迫力満点の画力が圧巻

白状すると、私は「歴史もの」が苦手だ。きちんと日本史の勉強をしてこなかった自分が悪いのだが、小説もマンガも映像も、「時代もの」を自ら手に取ることは、あまりない。本書は幕末に生きた天才剣士・伊庭八郎の成長とその軌跡を描いているが(まだ1巻なのですが)、私のような「苦手意識」がある方には、巻末のあとがき「イバハチ新報」から読むことをオススメします(わかりやすい!)。しかしながら、父との真剣での対峙シーンにはぐいぐい惹きこまれた。迫力ある画力が圧巻。

村井有紀子 大泉洋さん著『大泉エッセイ』文庫発売中!&NACS特集担当。ちなみに大泉さんの取材は雪と雨ばかりでした……先生!

 

幕末に生きた天才剣士の素顔

幕末の動乱の中、ひときわ魅力的な人物であると伝えられている伊庭八郎の一代記の第1巻だ。自分なりの伊庭八郎像を壊されやしないかと読む前、一瞬不安がよぎったが杞憂だった。岡田屋鉄蔵の筆力から描かれる八郎は実に魅力的で目が離せない。江戸の名門道場の跡取りとして生まれ、幼少期は体が弱く本ばかり読んでいた八郎が剣の道に目覚めるところでこの巻は終わっているが、天才剣士へと変貌を遂げ後世へ語り継がれるほどの魅力を放つ人物に成長していく続巻が早くも待ち遠しい。

佐藤正海 人事異動が行われました。自分の席がトルツメされていないかとドキドキしながら出社してる毎日でした

 

剣と幕末と、人間の物語

男とは、いつの時代も刀や侍が大好きである。自分もご多分に洩れず、いまだに長い棒を見ると振り回したくなるのだが、素晴らしい装丁に惹かれ本書を手に取ってみると、ただのアツいチャンバラマンガではないことがすぐわかる。父親や親友と通わす心、女性の愛し方……。武士と言えども、抱える悩みは現代人と同じだったのかもしれないと思わせられる、繊細な人間ドラマに仕上がっているのだ。大河ドラマ好きなご年配の方々や、女性にもぜひ読んでほしい。続刊が楽しみでなりません。

鈴木塁斗 幼少期からの『るろうに剣心』の影響で元剣道部。「牙突!」とか言いながら壁に空けた穴は今も残っているのだろうか

 

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif