女性はAVを見ている男性の汗を識別できる!? 中村うさぎが人気の脳研究者を徹底尋問

科学

更新日:2013/3/8

 異性の友人と話していると、物ごとの解釈や目のつけどころで男女差を実感する。よく「男性は論理的、女性は感情的」と言われるけれど、実際、女性がストレートに感覚的なことを言うのに対し、男性はそれを分析することで理解しようとしたりする。会話にうまく男女差が活きると、話題は縦横無尽に広がり、思わぬ発見があったりもして、とても弾むことがある。

 『脳はこんなに悩ましい』(池谷裕二、中村うさぎ/新潮社)は、究極の男女差対談本だ。池谷裕二は『海馬 脳は疲れない』(糸井重里との共著/単行本:朝日出版社、文庫:新潮社)など多数のベストセラーを生んだ脳研究者。中村うさぎはホスト狂いや買い物依存症といった日々を赤裸々に語り、哲学的に「実存」にアプローチする女流作家。この2人が語り合うのだからおもしろくないわけがない。

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 「ひらめきの男、直感の女」「ダマし合う脳と身体」など章ごとにテーマが設けられているものの、対談はフリートーク形式で連想ゲームのように話題は次から次へ。中村うさぎが普段感じていることを本音で話し、池谷裕二が最新の脳研究の見地からそのときの脳の活動を説明していくのだが、これが思わぬ発見の連続で、まるで会話のアドベンチャーのようだ。

 とりわけ興味深いのが脳研究の実験データ。たとえば、「赤ワインを常飲する女性は性欲が強い」「アダルトビデオを見ている男性の汗を女性は識別できる」といった実験データなど、直接的に役立つ知識ではないかもしれないけれど、ネタ的にちょっと人に話したくなる。他にも精子の頭部に味覚センサーがあるという研究報告や、人差し指が短い男性はアソコが大きいという韓国の研究データなど、アダルトな脳科学が満載で興味津々。

 そうしたトリビア的知識だけでなく、快楽を感じる脳のメカニズムや、脳とうつ病の関係など、心の問題も解き明かされてゆく。ストレスや悩みも脳内物質の作用だと思うと、なんだか気持ちも軽くなる。人生相談の本などを読むより、もしかしたら本書を読んだ方が解消されるかもしれない。

 脳は起きているときも寝ているときも膨大なエネルギーを使ってフル稼働している。物を認識する、手を動かすといった感覚や運動に使われる脳エネルギーは全体の5%にも満たないそうだ。謎の多い残り95%を「脳の暗黒エネルギー」と呼び、その仕組みを知りたいというのが池谷裕二の目的。一方の中村うさぎは、一番知っているようで実は一番知らない自分を知りたいというのが目的だ。一見、対照的な2人に見えるが、実は知りたいことはかなり近い。最終章で2人はアメリカの遺伝子診断を受けるのだが、中村うさぎにとって「遺伝子」は、究極の「自分探し」みたいなものなのだという。

 99ドルで遺伝子を調べてくれるサービスがあり、これにより父方と母方の祖先が500年前にどのあたりに住んでいたかが推定できる。その結果、中村うさぎの母方のルーツは南米の先住民と遺伝子が近いことがわかった。他にも生まれたときの体重や、耳垢が乾燥タイプかウェットタイプかもわかるというから驚きだ。そして多くの人が知りたいと考えるのが、病気遺伝子だろう。ガンや心臓疾患の遺伝子疾患、躁うつ病やアルツハイマー病にかかる可能性が遺伝子診断である程度わかるらしい。

 脳のメカニズムや遺伝子情報はまだまだ謎が多い。もしかしたら「自分」なんてものは、ちょっとだけ表に出ている氷山の一角みたいなものなのかも。もっと自分を知りたい人は、本書で脳の探検に出かけてみるのもいいだろう。

文=大寺 明