プロセスが大事!? 女性向け官能小説って、男性向けとどう違うの?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

近年、女性の“性”が開かれつつある。女性スタッフだけで制作される女性向けAVメーカー「SILK LABO」が注目を浴び、人気男優の“エロメン”一徹はいまやテレビにも出演するほど。2013年には「TENGA」の女性版である「iroha」という自慰グッズも発売された。

同時に、じわじわと認知を高めつつあるのが、女性向けの官能小説だ。古くからある出版社のみならず、13年には集英社クリエイティブが「eベルベット文庫」、角川書店(現・KADOKAWA)が「クロスラブ」という官能小説レーベルをスタート。女性向け官能小説を掲載するWEB小説マガジン「fleur」もオープンした。

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一方で、エロの世界では雑誌やマンガ、小説などの紙媒体が、時代とともに映像にユーザーを奪われ、読者のほとんどが高齢者に…などという話を聞くのも事実。しかし、女性にこそ官能小説が必要だ、と主張するのは『女流官能小説の書き方』(幻冬舎)の著者、藍川京氏だ。氏は、『華宴』『夜の宴』(幻冬舎)、『悦花芳香』(双葉社)などを書いた、女性向け官能小説家である。

「前後の話はどうでもよく、その行為だけで満足するタイプは男性、特に若い人に多い。ストーリーのある官能小説を読むより、そのものずばりの映像のほうが刺激があっていいのだ。(中略)そんな男性に比べ、女性は行為だけでは満足しない人が多い。そこに至るプロセスを大切にする。(中略)女性には、性行為に至るまでの納得できるストーリーが必要だ」

だからこそ、性行為に至るまでの物語が心理描写とともに丁寧に描かれる官能小説は、「これからますます女性に必要とされる読み物になっていくだろう」というのである。

さらに、「男性向けに書かれた官能小説を読んだ女性が(中略)2冊目に手を出さないのは、多くが男性の立場から書かれていて、女性の気持ちや女体のしくみや快感が置き去りにされているからだろう」ともいう。

たとえば、性行為の相手に対する考え方。「風俗に通って性欲を発散したり、次々と相手を替えられる男」とは違い、女は「愛がなければ女は感じない。セックス行為だけでは燃えない。欲求不満であっても、相手かまわず抱かれたい女性は滅多にいないだろう」。

この違いは、性行為そのものに求めるものへの違いにもつながる。

「女にとってセックスとは、ペニスでこと足りるものではない。女は達するために男の指や唇や舌も駆使した愛撫がほしい。(中略)肉と肉の繋がりや性を放つことが快感で、それが目的になる男性に比べ、女はエクスタシーを迎えるのが目的とは限らず、一緒の時間を過ごすことに精神的な悦びを感じる」

エクスタシーに関しては、達するまでの時間差もある。ほかにも、「巨根は女にとって良いものではない」し、「処女喪失後、すぐには快感は訪れない」。こうした違いを、藍川氏は自著を引用しつつ、丁寧にひもといていく。

もちろん、『女流官能小説の書き方』は女性向け官能小説の書き方を解説した1冊だ。本書では、女性向け官能小説の種類、書くためのテクニック、参考書、そして「40~50枚の短編なら、依頼されるのは1、2カ月前。それ1本ならいいが、300枚ほどになる文庫1冊分の長編も並行して書いていることが多い」と、官能小説家の実情にも触れられている。

いったいなぜ藍川氏は、わざわざ自らの知識や技術、経験をあますことなく書き綴ったのか。それは、官能小説が「他のジャンルの小説が書かない部分を細密に描く」「人間の生を書いた作品」だという氏の矜持に起因するだろう。性は本来、恥じるものではないのだ。

官能小説は、妄想を膨らませれば誰もが書ける。だから、女性よ、大いに性を妄想せよ、と氏は繰り返す。その言葉は同時に、女性の性を肯定し、解放するために差しのべられた手のようにも見える。

文=有馬ゆえ