スポーツ根性ものに経済観念を盛り込んだ、三田紀房の初期の意欲作

更新日:2011/9/12

クロカン (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 日本文芸社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:三田紀房 価格:400円

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「ドラゴン桜」「マネーの拳」「砂の栄冠」で有名な三田紀房が描いた高校野球マンガ。というより、むしろ高校野球監督マンガ。
  
主人公は高校野球監督通称クロカンこと黒木竜次(くろき りゅうじ)。そのクロカンが、地方の弱小チーム、鷲ノ森高校を率い、甲子園に出場、勝ち進んでいくのが大筋のお話。
  

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「ドラゴン桜」においては「志望校合格」、「マネーの拳」においては「利益アップ」。そして、この物語では、「甲子園出場」という高い目標に対し、何もせず結果を求めることは安易であり、代償を払わなければ、技術、結果を得られない、とクロカンは生徒達に語る。そしてクロカンが生徒達に求めた代償とは、…お金である。例えば、ノック1本10円。バッティング指導一回50円というような契約を、生徒と結んだのだ。
  
野球部OBや学校側からの反発のなか、選手達は目的達成のため、自ら進んで、技術を教えてもらうためにお金を払い、そして強くなっていくのである。またクロカンは生徒達にも能力、個人の差が当然あると考え、未熟な選手達からは指導料をもらう一方で、すでに才能のある坂本とは、甲子園出場することを条件に、クロカンが坂本に給料を払うという関係になる。
  
このような能力的、経済的に単純な構図の中で、精神的、技術的に未熟だった人間、この物語では高校生球児が現実を直視し、それを乗り越え、努力していく姿が描かれているのは、三田紀房の作家性だと考える。
  
ちなみに物語後半で、坂本がドラフト指名され、プロ野球選手として道が開けるのことは当然だったとして、元来未熟な存在だった、捕手の浅井が下位ながらもドラフト指名されたことが、有効な努力をすれば、必ず報われるという印象を与える。
  
スポーツ物はルールが単純なだけに作家性が顕著に出やすい。その中で、大人向け高校野球マンガとして、お薦めの作品である。

弱小の鷲ノ森野球部員達がクロカンに監督要請しにきたが、クロカンは自分の価値を彼らに告げる

結果を出したい。そのためには何が必要なのか? どうやればいいのか? それが解き明かされていく

野球部員達がお金を払った代償に、必ず技術と結果が付いてくると説くクロカン。払った代償、努力の痕跡が、このカンの中のお金なのである

練習、試合、全てにおいて「自分で考えろ」「自分で決めろ」「現実を直視しろ」といい続けるクロカン。それが野球選手だけでなく、結果を出す大人としての条件である

お祭りでの出場報告会の場面。村人達にも「他人に甘えるな。自分の力で、成せ」とクロカンは言う (C)三田紀房/日本文芸社