時代錯誤ノリを断ち切るツッコミはある?/ツッコミのお作法⑩
公開日:2025/2/3
コンビニで理不尽な目に……口には出さないサイレントツッコミ
飲みの場に限らず、日常生活でちょっとめんどくさい人と出くわしてしまうことってありますよね。僕は最近、コンビニで理不尽な目に遭いました。
会計の列に並んでいたときのことです。店員さんが「こちらにどうぞ」と空いたレジのほうに来るよう、僕の前のお客さんに声をかけました。でも、その人はその呼びかけを無視してスーッと横に移動したんです。「買い忘れたものでもあったのかな」と思って見ていると、店員さんも同じことを思ったのか「じゃあ次の人」と僕のほうに声をかけてくれたので、レジに進みました。
すると前にいたお客さんが戻ってきて、「俺、並んでたんだけど!」とすごい勢いで怒鳴ってきました。どうやらホットスナックコーナーを見に行っていたみたいで、商品を確認して会計しようと戻ってきたら僕がいたんでしょう。「すみません」と言って僕はレジ前から引き下がりました。
それで終わると思いきや、その人は引き続きこちらを睨んでくるんです。謝罪もしたし順番も譲ったので、僕ができることは全部やりました。もうここからはこの人がどんな奇行をしてこの出来事をエピソードトークとして強くしてくれるかワクワクするゾーンです。結局その人は数秒ほど睨み続けたあと店員さんに「アメリカンドッグひとつ」という、不機嫌な割にはだいぶ浮かれた商品を買って店を出ました。
もちろんこの一連の間に「ショボいフェイスオフか!」「え、もしかして奢らされるの!?」「怒りのアメリカンドッグ!?」などとツッコみたい気持ちは山々ですが、そんなことをしたらより厄介なことに巻き込まれてしまいます。なにより、自分にも非があるとのちにトークとして披露した時に気持ちよく笑ってもらえません。もちろん勇気を出す必要がある場面も存在しますが、基本的には心の中でツッコんで完結したほうが安全ではあります。激アツエピソードトークチャンスとでもとらえて、サイレントツッコミを入れてやり過ごしましょう。
■ツッコミ例
(なに言ってんだよこいつ)■ツッコミ名称
サイレントツッコミ■解説
話が通じなさそうな他人と出くわしてしまったとき、心の中で入れるツッコミ。「これ後で誰かに話したら笑ってくれるかも」とその状況を面白がりつつ、浮かんだ感情や言いたいことを口に出さずにスッキリさせる効能が期待できる。
そういったルール違反やキショ行動を友人や知人などの近しい人がしてしまっている場合はちゃんと注意するのも大事だと思います。ただ、ガチのトーンで「それありえないでしょ」とストレートに伝えるとだいぶ空気は悪くなりますよね。場合によってはそこから関係にヒビが入って修復できなくなるパターンもあるかもしれません。
やんわりと伝えるツッコミとしては「それ誰かに『やれ』って言われてるんですか!?」「え、いま僕の正義感試されてる?」というような、その人自身から別の人に責任転嫁する形がベターかもしれません。「本来ならそんなことする人じゃないですよね」というニュアンスを含めると、責めている印象が薄まる気がします。
今回この話をするにあたって身の回りでそういうエピソードあったかなと考えてみたんですが、意外と芸人ってまともなんですよね。以前、芸人数人と一般の方数人と一緒にエレベーターに乗り合わせたときに「開ける」ボタンを押してくれた人へ芸人だけが「ありがとうございます」とちゃんとお礼を言って降りていく光景を見たことがあります。常識から外れていると思われがちな芸人のほうが、実はそのあたりちゃんとしてるんだなと思いました。まずはまともを知り、そこをズラすのがおもしろいですもんね。なので僕もなるべく真人間でありたいものです。芸人のコラムとは思えない結びの言葉ですね。

(取材・文/斎藤岬)
<第11回に続く>
森本晋太郎(もりもと・しんたろう)/1990年、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。