僕が「ツッコミ」になった理由/ツッコミのお作法⑫

小説・エッセイ

公開日:2025/3/3

この連載は今回で最終回になります。一度でも読んでくださった皆様、ありがとうございました。せっかくなので最後は「ツッコミの上手い下手」とはどういうことなのか、あらためて考えるところから始めてみたいと思います。

いきなりですが、ドラゴンヘルパー竜介という芸人をご存知でしょうか。『遊☆戯☆王』がとにかく大好きで、その主人公のコスプレをしてピンネタをやったり生配信をしたり、しまいにはコンビを組んで「M-1グランプリ」の予選に出たりしている、まあとにかく変わったやつなんです。いろんなネタのひとつに『遊☆戯☆王』があるわけではなく、それ一本でお笑い界の荒波を泳ぎ切ろうとしている不器用さも愛らしくて人に好かれる所以だと思います。

しかしながらこのドラゴンヘルパー竜介、普段のスタンスがツッコミなんです。ネタでは現実離れしたカツラをかぶっている彼が「なんだそれ!おかしいだろ!」など、意気揚々とツッコみます。これがすべて的を射ているならいいのですが、基本的にはちょっとズレています。それもそのはず、『遊☆戯☆王』のキャラ一本でいこうと決断できる人間がツッコミなわけないんです。

これを続けたら竜介の可愛げが削がれてしまうと危惧して定期的に「ツッコミのスタンスやめて」と伝えているのですが、その度「なんでだよ!」とツッコまれてしまいます。どうやら僕はドラゴンヘルパーヘルパーにはなれなそうです。

状況に応じて“使える”ワードの選択肢は増減する

ネタ以外の場でのツッコミにおいて、上手い下手を分けるのは「選択肢の数を場合に応じて変化させられるか」だと僕は考えています。相手との関係性やボケの内容、それまでの流れと状況など、条件によって使えるワードはその都度変化します。

僕はアイドルの方とご一緒する機会が多いですが、対アイドルとなると芸人を相手にする時に使うツッコミのワードを100%は使用できません。「これはアイドルの方に言ったら失礼かもな」「ファンの人たちが悲しむだろうな」と考えると、選択肢は自然と狭まります。

「そりゃそうだろ」と思うかもしれませんが、意外とこれができない人もいるんです。たとえば「殺すぞ!!」という相当強いワードがあります。もちろんこんな言葉は普段絶対に言ってはいけませんし、これは対芸人であっても使える条件はかなり限定的です。

しっかりした関係性がある相手からめっちゃ失礼なボケをされてこてんぱんにイジられまくって、ひょっとしたら自分が少しかわいそうに思われていそうだったり、逆に相手がひどい人という印象になっていそうだった時にようやく「殺すぞ!!」と言える状況が成立すると思います。

脳内のイメージでいったら、普段はグレーアウトしている「殺すぞ!!」と書かれたボタンがクリック可能になる感じです。でもツッコミが上手くない人は常にどのボタンもクリック可能になってしまっていると感じます。逆にいえば、制限された環境でも最適で面白い選択肢を選び続けられる人が、ツッコミの上手い人なんだと思います。

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森本晋太郎(もりもと・しんたろう)/1990年、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。