運命の答えあわせ/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙#11
更新日:2025/2/5
子供の頃から漠然と運命を信じていた。その人でなくてはだめで、私でなくてはだめな唯一無二の存在。この世の全てを分かち合う双子の片割れのような人。小説や映画で憧れたそんな出会いがいつか私にも訪れるのだと思い込んでいたけれど、大人になればなるほど運命というものがわからない。それっぽいものに遭遇した気はするけれどどれも違った。というか、その瞬間にはいなづまが落ちても喉元過ぎれば脱価値化(※1)されるのが恋の本質ではないだろうか。
最初はぴったりと嵌ったように思えた魂のピースも、無理をして形を合わせていたことに気づいたり、少しずつ形が変わっていってしまうこともある。生身の私たちにおとぎ話のようなハッピーエンドは用意されていない。どんなに完璧なラブストーリーの後も人生は続くのだ。
あんなに確かだったはずの運命が今では靄を掴むよう。そもそも運命って何だ。もしかして存在しない? ひょっとして皆は早々に気づいていたの?
「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」などに代表される茨木のり子さんの詩といえば、芯のある女性像である。そんな彼女が没後に出版した詩集には亡き夫への想いが綴られていた。
夢
ふわりとした重み
からだのあちらこちらに
刻されるあなたのしるし
ゆっくりと
新婚の日々よりも焦らずに
おだやかに
執拗に
わたくしの全身を侵してくる
この世ならぬ充足感
のびのびとからだをひらいて
受け入れて
じぶんの声にふと目覚める(後略)茨木のり子『歳月』より
見てはいけない、それでいて目を逸らせない二人きりの世界。言葉を連ねるごとに濃密さを増す色気の漏れる詩だ。
25年を連れ添った夫へ宛てたラブレターといえば家族へのほんわかした愛のメッセージかとばかり想像していた私は、この『歳月』があまりにも男女の鮮度を保ったままであることに面食らった。
さり気ない肌触りから徐々に熱を上げてゆく身体感覚。赤裸々な描写に死の匂いが立ちこめて幻想的な濃淡が浮かび上がる。満ち溢れる喪失感に胸が痛むと同時に、運命的な二人の出会いを羨ましく思った。
時を越えて美しいまま冷凍保存された恋。上位数%だけが迎えることのできる激レアエンディングではないだろうか。私に限ってこのような出会いがこれから訪れるとはますます思えない。自信なくした。それでも、その出会いが運命なのかどうかなんて最期の答えあわせでしかわからないではないか。それならば運命にすら倚りかからずに生きたいものである。
※1 理想化していた対象が期待していた水準の充足感を与えてくれないことがわかると、一気にその価値が引き下がること。


1990年6月4日生まれ。埼玉県川口市鋳物工場街育ち。2014年にメジャーデビュー。 2017年にバカリズム作ドラマ『架空OL日記』の主題歌「月曜日戦争」を書き下ろす。 2ndシングル「残ってる」がロングヒット。 2023年11月15日に青春をテーマにした二部作の第一弾EP『若草』をリリースし、約3年振りとなる全国ツアーを開催。 2024年3月20日に第二弾EP『六花』をリリース。4月にHall Tour “六花”を開催。 2024年5月14日にLINE CUBE SHIBUYAにて行われた「吉澤嘉代子10周年記念公演 まだまだ魔女修行中。」を皮切りにアニバーサリーイヤーがスタートしている。 10月からは全国を巡るツアー「旅する魔女」を開催中。