仕事を休むのは甘え? 給料はどうなる? 産業医に聞く、「休職」を考えるタイミング
公開日:2025/1/26

働きたい時に働き、休みたい時に休む。そんな働き方ができれば理想的ですが、会社に所属しているとそうはいきません。頑張りすぎてオーバーワークになり、体調不良を引き起こすこともあります。そんな時、一定期間の休暇が取れる「休職」の制度をご存じでしょうか。
ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」の院長であり、『産業医が教える 会社の休み方』(中央公論新社)の著者でもある薮野(やぶの)淳也さんに、休職したほうがいい人のケース、休職する時の方法や注意点などを聞きました。
目次
「休職」とは? 有給休暇との違いは?
「休職」したほうがいい人とは?
「休職」を甘えだと思われるのが怖い…
最近は「休職」しやすい傾向があるって本当?
「休職」したら何が変わる?
「休職」の期間はどれくらい?
「休職」できる期間は、症状とは関係ない?
休職中の給料はどうなる?
「休職」明けにポジションがなくならないか心配…
「休職」するために必要な書類は?
体調の悪さを産業医や会社の人に伝えられる自信がない…
産業医がいない会社で「休職」を要請する時の注意点は?
会社が完全にブラック企業なんだけど…
産業医・心療内科医からのメッセージ

「休職」とは? 有給休暇との違いは?
一般的に「休職」とは、「私傷病休暇」のことを指します。メンタルの不調に限らず、ケガや病気をした時などにも、雇用を維持したまま、一定期間の休暇を会社から与えられる制度です。ピンポイントで取ることが多い有給休暇に対し、「休職」は1カ月単位で連続して休みます。
「休職」したほうがいい人とは?
私の観点では、平日9時から17時など、会社が定める就業時間に労務の提供ができていない人でしょうか。そういう患者さんには、一旦しっかりと休み、体調を整えてから働くように提案しています。「仕事がうまくいかない」というキャリアの問題を挙げる方もいますが、それは健康面の不調ではないので、「健康」と「キャリア」の問題を一旦切り離し、健康面で不調を訴える人に休職をおすすめしています。
「休職」を甘えだと思われるのが怖い…
そのように考える患者さんは多く、たしかに、従業員には「自分の体調は自分で整える」という自己保健義務があります。一方で、労働安全衛生法というものもあり、会社は従業員の健康を守る義務があります。産業医の配置や健康診断、ストレスチェックなども、企業の義務によるものです。
わかりやすい例だと、首の骨を骨折した人が重いものを持ち上げるような仕事はできませんよね。そうすると、「一旦治療に専念して完治してから働いてください」という義務が生じます。メンタル面の不調であっても同じです。普段のように働けない場合、従業員には休む権利があり、休むのが義務でもあるのです。
最近は「休職」しやすい傾向があるって本当?
本当です。最近は働き方改革により、休職願いを出しやすい風潮になってきました。その一つに、「プレゼンティズムをいかに改善するか」ということがよく語られています。プレゼンティズムとは、仕事に行けるけど体調不良で生産性が下がっている状態のこと。女性のPMS(生理前症候群)などもプレゼンティズムに当たりますね。体調不良時の休暇は、本人にとっても、会社にとっても効率的だという考え方が一般的になりました。
「休職」したら何が変わる?
休職を迷っている人にお伝えするのは、「1」と「0.1」の話です。生産性=アウトカムが「0.1」の状態で10日間働いても「1」にしかなりません。一方、9日間休んで体調を整え、最後の1日だけ働いても「1」になる。休職直前の方の多くは体調がすぐれず、パフォーマンスも下がっている状態。体調面でもいろんな問題を抱えているでしょうから、それ以上悪化しないように、休職によって、負の連鎖を断ち切るようなイメージです。
「休職」の期間はどれくらい?
会社の規則によりますが、いわゆる日系の大手企業だと長く、外資系ベンチャー企業は短め、という傾向があります。勤続年数によって変わることもあります。まずは就業規則で、ご自身がどれだけ休めるのかを確認するといいでしょう。
「休職」できる期間は、症状とは関係ない?
関係ありません。あくまで、会社の規則に従って休職します。ただ、ベンチャー企業の患者さんで、1カ月と決められているけれど、「まだ休んでいいよ」と言われて期間を延長したケースもあります。ただ、大きな企業でそのようなことはまずなく、規則に沿って休まないと自然退職になることがあります。
休職中の給料はどうなる?
大きな企業は、福利厚生で3~6カ月間の給料が支払われることが多いようです。また、各企業には傷病手当があり、体調不良で働けない場合、主治医の休職命令が出れば、基本給の6割が支給されます。それを、体調を整えるための通院や治療に使う患者さんが多くいらっしゃいます。経済的な保証はありますので安心してください。
「休職」明けにポジションがなくならないか心配…
休職後に同じ部署に戻る患者さんがほとんどです。また、人間関係が原因で休んでいる場合、異動させてくれる会社もあります。規則を破って自然退職、といったことを除けば、いきなり解雇にはならないはずです。その点は心配しなくていいと思いますよ。
「休職」するために必要な書類は?
一般的には、主治医の診断書が必要です。診断書を提出したら、人事や労務から休職命令が出ますので、その内容に従って手続きを進めます。心療内科やクリニックに直接行って診断書をもらってもいいですし、産業医(主に従業員50人以上の会社)や人事をたずねて「体調が良くない」と相談し、指示をもらってもいいと思います。
体調の悪さを産業医や会社の人に伝えられる自信がない…
この記事を読んでいる人の多くは、自分の体調の悪さを周りに相談する、というのが苦手なタイプかもしれません。ただ、仕事が原因で体調不良が続く場合、仕事の環境を変えない限り、体調が勝手に良くなることはあまり考えられません。今どのような問題を抱えていて、それを解決してくれるのは主治医なのか、産業医なのか、それとも仕事を調整してくれる上長なのか、それを見極めて実際に相談することが重要です。
産業医がいない会社で「休職」を要請する時の注意点は?
基本的に、主治医の診断書があれば休職を要請できますが、従業員が10人など、規模が小さめの会社の場合、部長や社長と直接話すケースも多いですよね。そこで会社への不満などを言い出すと話がこじれやすいので、あくまで「体調を整えるために休養が必要」「復帰するにはどうすればいいのか」を擦り合わせる場にするといいでしょう。そこで齟齬が生まれないように、診断書を書く主治医とも話を合わせておいたほうがいいですね。
会社が完全にブラック企業なんだけど…
ここまでお伝えしたことの多くは、いわゆるホワイト企業に勤める方に通用するもので、そうではない方もいらっしゃるはずです。過去には裁判にまで発展した患者さんもいました。ご自身のキャリアを考えれば、転職する選択肢もあるでしょう。いずれにしても、体調を崩している時は考えがまとまりにくい状態です。大事なことは、やはり休職し、体調を整えてから決めることをおすすめします。そういった場合でも、産業医や主治医の立場でしっかりと応援しています。
産業医・心療内科医からのメッセージ
仕事が原因のストレスに、ご自身で対処できる人もいれば、そうではない人もたくさんいると思います。また、産業医による面談を受けると、その話が筒抜けになって評価が悪くなると考える人もいますが、基本的にそんなことはありません。日本は、従業員が不利にならないような法律が整っている印象があります。それならば、休職をしっかりと利用して、仕事のパフォーマンスを上げたほうがいいと思うのです。
気軽に休職を、と言うつもりはないのですが、自分でどうしようもない時は専門家を頼るという意味で、休職の選択をするのも悪くないと私は思います。健康状態を保って働くに越したことはありません。各企業にとっても、それがスタンダードになれば、日本社会の働き方はもっと良くなると思います。
文=吉田あき
(プロフィール)
薮野淳也(やぶのじゅんや)
産業医・心療内科医。1988年、東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、徳島大学医学部へ。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士、健康運動実践指導者。大手企業の産業医として日本オラクル株式会社のほか、スタートアップ企業から東証プライム上場企業まで、10社以上の様々な規模・職種の企業の産業保健業務に従事し、経験を積む。2023年より、南青山にビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」を開設し、院長を務める。得意分野は職場のメンタルヘルスと運動療法。