俳優・戸塚純貴と作家・くどうれいんがタッグを組んだ『登場人物未満』。15枚の写真から連想された、15のショートストーリー【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/1/29

登場人物未満戸塚純貴:モデル、くどうれいん:文/KADOKAWA

 2024年の朝ドラ『虎に翼』で轟太一役を演じ、「#俺たちの轟」としてSNSをにぎわせた戸塚純貴さんは、演技が「うまい」というよりも、役に「為る」ことができる人だ。それは2023年に春日俊彰になりきったことで話題を呼んだ『だが、情熱はある』に始まったことではなく、「自分だけは見つけている」と何年も注目し続けていた視聴者は少なくないだろう。そんな、戸塚さんを撮影した1枚の写真をもとに、戸塚さんと同郷の作家・くどうれいんさんがショートストーリーを書きおろす――雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載していた企画がついに書籍化された。その名も『登場人物未満』(戸塚純貴:モデル、くどうれいん:文/KADOKAWA)。

 高校時代、階段の踊り場でたまたま声をかけてきた、ちょっと変わった先輩。毎週月曜日に決まって自撮り写真をSNSに投稿する「月曜日の男」。今でも幸せな記憶ばかりがよみがえる、結婚すると心から信じていたかつての恋人。わかりやすい励ましはないけど、一緒にいると自然と笑顔が戻ってきてしまう、腐れ縁の友達。寄り添うような優しい声を聴くだけでテンションがあがるラジオパーソナリティ。「その1枚から、そういう発想をするのか!」と驚かされるくどうさんの引き出しの多さと、短いなかにぎゅっと詰まった、どこか懐かしさを喚起させられる情景(そんな情景を見たことなんてないはずなのに、なぜか知ってる! と思ってしまう)。いいなあ、としみじみしながらもう一度写真を見返すと、物語が映し出されてまた見え方が変わる。そして改めて、どの写真も違う顔をしている戸塚さんに驚かされるのだ。

©干川修

 小説ありきで写真を撮ったなら、まだわかる。でも、戸塚さんはどんな物語が生まれるのかもわからないまま、撮影されているのだ。用意された場にたたずんで、ときにはしゃいで、ときにしっとりしている。い、イケメン!!!!! と息を呑むような写真もあれば、「こういう先輩/男友達、いたなあ……」と、あたかも一緒に青春時代を過ごしたかのような親近感で、苦笑してしまうような写真もある。演じているというよりも、その空間にただひたすら、なじんでいる。溶け込んでいる。そこにいるのは戸塚純貴であって戸塚純貴ではなく、本当の彼はいったいどこに在るのだろうという、とらえどころのなさも感じさせられて、この人は天性の役者なのだろうなと圧倒されもする(重ねて言うが、その、戸塚純貴であって戸塚純貴ではない雰囲気を絶妙にとらえて、毎回ちがう球を投げてくるくどうさんも、めちゃくちゃすごい)。

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 くどうさんの小説から連想して、戸塚さんが書き下ろしたアナザーストーリーも毎回付録されているのだが、それがあることでよりいっそう世界観がふくよかに広がっている。1枚の写真から、ひとりの役者から、こうも物語はふくらむのかと「創造」の可能性をも見せつけられたような気がした。

 ラストに収録されているくどうれいんさんのエッセイも、とてもよかった。連載を終えた後、くどうさんが戸塚さんをつかもうとかわした会話。それはエッセイのようでも、小説のようでもあるが、くどうさんにしか書けない戸塚純貴評であり、そして誰も読んだことのないインタビューでもあると思った。きっとここから「#俺たちの戸塚純貴」が始まるのである。

文=立花もも