「同居する友人同士のオナラ事情」にも果敢に切り込む、赤裸々かつしあわせな彼女たちの日常【書評】
PR 公開日:2025/2/6

小柄な小田さん(イラストレーター)と長身の大原さん(大学勤務)は、美大時代の同級生。東京でそれぞれ一人暮らしをしていた彼女たちは、いろいろあって共に暮らすことに。女友だち同士の同居生活は、意外なほど風とおしがよくて……。
味わい深い絵柄と匂いたつ色気が魅力的なイラストレーター、たなかみさきさん。各方面で話題を呼んだイラスト集『あ〜ん スケベスケベスケベ!!』(PARCO出版)から5年……。待望の新作は、なんとマンガ! 大学時代の友人と同居している著者自身が、自分たちの日常を題材に綴った〈同居〉マンガ『大なり小なり』(文藝春秋)である。
大雑把な小田さんと心配性の大原さんは、体格や性格だけでなく、さまざまな点で対照的。それでもなぜか大学時代から馬が合っていたようで、もう10年近く友人関係を続けている。
おもしろいのは、小田さんは現在シングルだが、大原さんには恋人がいるということ。多くの場合、新しい住まいを見つけなければならなくなったら、とりあえずの間だけでも恋人と暮らすのを選びそうなものだ。しかし大原さんが「誰かと一緒に暮らすなら」と選んだ相手は小田さんだった。楽しく暮らせそうなのは、恋人ではなく友人、と。
実際に彼女たちの生活は、読んでいてとても楽しそう。


キッチンで並んで料理をし、他愛のないお喋りをしながら食事。夜はスーパーの前で待ち合わせ、晩ごはんの材料を買うつもりが、お隣のラーメン屋さんへ吸い込まれる……。
大原さんは室内では基本パンいちで、お互いにおならやげっぷも解禁している。同性の友人同士ゆえの“許しあい”と、相手に干渉しない線の引き方が絶妙で、その点で彼女たちは対照的でありながら、本質的な部分は似ている。他者に対する距離感覚の鋭敏さ、のようなものが(基本、名字プラス、さんづけしあっているあたりに、それが窺える)。
とりわけ素敵に感じられたのは、台詞であれ心のなかの声であれ、一度も「親友」という言葉がでてこないところだ。読んでいる側からすれば、彼女たちはまぎれもなく「親友」に見える。単に馬が合うだけではなく、深い部分で分かりあい、相手の孤独を尊重しているのが伝わってくる。
なればこそ、小田さんも大原さんもそして作者も、この関係性を安易に「親友」という既存の言葉で言い表すのを拒否しているようにも思える。


突発的な深夜のカラオケ大会(with後輩)、憧れのドッグランデビュー、コイバナで盛り上がる回など、くすりと笑えたり、うんうんと共感できるエピソードが満載だ。
そうして終盤、小田さんは大原さんの帰省旅行の同行を経て、自らの家族への向きあい方と、他者との接し方について改めて考える。そんな彼女に大原さんは言う。
「私は幸も不幸も 家族じゃなくても そばで小田さんが見てくれていて すごく助かっている」
家族ではない。夫婦でもない。この生活がいつまで続くのかも分からない。それが分かっているから、彼女たちは毎日の他愛ないやりとりを目いっぱい楽しみ、大切にしている。
いや、他愛のないことほど疎かにしてはならない――そんな信念すら感じられてくる。
穏やかで豊かな日々を分かちあう相手がいるということの、しあわせ。本書を読んで私もしあわせな気持ちになれた。
文=皆川ちか