誰のために痩せるのか?スリム好き童貞と毒舌肥満女性が、女性たちの“痩せられない理由”に向き合うダイエット小説【書評】

文芸・カルチャー

PR 更新日:2025/3/7

痩せたらかわいくなるのにね?南綾子/双葉社

 痩せたらかわいくなるのに。誰かから向けられた、その無責任で身勝手な言葉に心を痛めてきた人は、この社会にどれほどいるのだろう。『痩せたらかわいくなるのにね?』(南綾子/双葉社)は、そうした経験がある人に響く。本作は、2019年に刊行された『ダイエットの神様』を改題・加筆修正したものだ。

 主人公の土肥恵太はスリムな女性が好み。だが、叔母に頼まれ、彼女が経営するダイエット教室で働くことになる。通常の事務作業に加え、恵太には特別ミッションが課された。それは、過去に叔母のダイエット教室を途中退会した元会員たちを説得し、再入会させることだ。

 無職の恵太は提示された報酬額につられ、元会員たちへのコンタクトを開始。すると、退会者の名簿に見覚えのある人物が…。かつて好意を寄せられていた元上司・福田小百合の名前があったのだ。

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 恋心を利用すれば、再入会させられるかもしれない。そう目論んだ恵太は小百合に接触。しかし、彼女の恋心はすでに鎮火しており、冷たい態度を取られてしまう。

 だが、ある日、小百合がダイエット教室を訪ねてきた。ライバルに勝ち、最近イイ感じな男性との恋を成就させたいので個人トレーナーになるよう、恵太に告げてきたのだ。

 小百合がライバル視しているのは、かつて恵太が片思いしていた同僚。上手くいけば、過去の想い人と再接近できるのでは…。そう考えた恵太は小百合のダイエットをサポートし始めるのだが、事態は思わぬ展開に。ひょんなことから、小百合も元会員の再入会業務を手伝うと言い出したのだ。

 太っている女の気持ちは、太っている女にしか分からない。そう語る小百合は持ち前の行動力と押しの強さを活かしながら、元会員たちに接触。恵太は小百合に翻弄させられながら、一筋縄ではいかない元会員たちの“痩せられない理由”と向き合う――。

 本作はテンポがよくてサクサク読めるので、普段あまり小説を読まない人でも手が出しやすい。毒舌な小百合と本音が隠せないまっすぐな恵太の軽快なやりとりに何度も笑わされるし、状況描写ひとつとってもコミカルに見せようとする著者の筆力に驚かされもすることだろう。

 だが、一方で単なる“面白小説”と片付けられない深みもある。様々な事情からダイエットを諦めた元会員たちの心情が丁寧に描かれていて、泣けるからだ。目の前の問題と向き合うのが怖くてやけ食いが止まらない、異性から相手にされない理由をスタイルのせいにしたいなど、元会員たちにはそれぞれ“痩せる”ことを諦めた経緯がある。

 そうした理由の中には自分が感じてきた生きづらさと重なる部分もあり、心が痛む。どんな容姿であろうと、その人の自由。それなのに人は「あなたのため」という正当性を主張しながら、自分が良いと思う容姿を他者に押し付けてしまいやすい。一体、その傲慢さとはどう向き合っていけばいいのか。本作は、そう考えるきっかけも授けてくれるのではないだろうか。

 また、強引で不器用な優しさを持つ小百合のキャラクター性も作品に深みを生み出している。小百合は基本的には自己肯定感が高いが時折、自分の外見に対する劣等感を素直に吐露。その上で「体型」というものは自分の食に対する選択の積み重ねでできていくと、重みのある持論を説く。

「あたしは太ってる。この肥満体型は、あたしが作った。年齢でも環境のせいでもない。でもいい。それが自分の足で立つってことだよ」(P76)

 こうした小百合の思考に触れ、恵太も“女性の体型への価値観”が変化。小百合の“体型論”や恵太が得た気づきは新しい視点で自分の容姿を見つめたい時、役立ってくれる。

 SNSなどで簡単に誰かと容姿を比較できる今の時代は、「誰かに愛されるために痩せたい」という歪な痩せ信仰を抱くこともある。だが、本当に大切なのは心が納得できる体型であること。本作を通して、自分が望む体型管理を自分のためにしていくことの価値が広まってほしい。

文=古川諭香

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