美味しい食事は空腹も疲れた心も満たす。『かしましめし』が描くご飯の力【書評】
公開日:2025/2/20

嬉しいときも悲しいときも、そして疲れたときや孤独なときも、私たちは食事をする。日々のルーティンになりがちな「食べること」が、ときに心を軽くしてくれることもあるだろう。『かしましめし』(おかざき真里/祥伝社)は、大人たちが食卓を囲みながら人生に向き合い、癒され、成長していく様子が描かれた、心温まるヒューマンストーリー。2023年にテレビドラマ化もされ、多くの人の心を癒した作品だ。
同級生の自殺をきっかけに再会した美大の同級生たち。心が折れ仕事を辞めた独身の千春。バリキャリだが孤独感を抱えているナカムラ。恋人とうまくいかないゲイの英治。それぞれが抱えた悩みや葛藤は、仕事や恋愛など読者も共感できるような等身大のものばかり。そんな3人は定期的に集まって食卓を囲む。美味しいご飯を食べることで、普段抱え込んでいた本音がこぼれていく。一気に何かが大きく変わるわけではないが、複雑な想いが少しずつほぐれ成長していく姿は、私たちの背中も優しく押してくれるだろう。
本作の魅力はなんといっても、食欲をそそるリアルなご飯の数々。美味しそうにご飯を食べる3人の姿に、読んでいて思わずおなかが鳴ってしまいそうになる。ご飯を堪能する表情、脳内で再生できるほどにリアルな音、ほかほかの湯気や滴る汁…そんなシーンを見ていると、忙しい日々に埋もれがちな「食べる喜び」を思い出させてくれる。おなかを満たすためだけにコンビニご飯や冷凍食品など、1人でサッと食事を済ませる方も多いだろう。だが、たまには立ち止まってゆっくり食事を楽しみたいと思わせてくれる作品だ。
本作には「包まないギョーザ」「フライパンで作るバターチキンカレー」「ホイル焼き」をはじめレシピも豊富に収録されている。細かな手順やアレンジの方法までわかりやすく描かれているので、作中のご飯を実際に作ってみてはいかがだろうか。1人でゆったりと料理を堪能するのも、誰かと他愛もない会話をしながら食卓を囲むのも良いだろう。空腹も、そして疲れた心も、きっと温かく満たされるはずだ。
文=ネゴト / fumi