うさぎは鳴かない。でも出す音で「うさぎの気持ち」がわかるんです! 「ひくひく」→うさぎ流のあいさつ。では「くしくし」は?【書評】
更新日:2025/2/5

長くのびた耳に、Yの字のような鼻と口、まんまるのしっぽ…かわいい要素がギュッとつまったうさぎ。多くの動物とは違って「鳴かない」ことが特徴ですが、日常の中でいろいろな「音」を出しているのを知っていますか? イラストレーター・キエピノコさんによる絵本『うさぎのおんがく』(白泉社)には、うさぎと暮らす著者だからこそ知る「音」がたくさん登場します。

たとえば、「ひくひく ひくひく」と鼻を動かすのは、うさぎがあいさつをする時の仕草。鼻がいいので、どんな匂いも嗅ぎ分けて、何がそこにあるのかを確認するのだとか。本書では、大好物のタンポポの匂いを「ひくひく」と嗅ぐうさぎの姿が描かれています。夢中で匂いを嗅いでいる様子を見ると、心の中では“おいしそう~”とおしゃべりしているのかも? なんて想像してしまいます。行動の理由がわかると、鳴かなくても気持ちを感じ取れるようで、うさぎの存在をより身近に感じることができました。
本作の見開きには、左側に、鼻の部分がアップになったうさぎ、右側に、音を出す時のシチュエーションが描かれています。アップになった顔には、長いまつげや、フワフワとした丸いほっぺなどが丁寧に描写されていて、本物のうさぎがそのまま飛び出してきたかのようなかわいさ。フワフワとした毛のやわらかさや温もりまで伝わってくるようです。

「くしくし くしくし」という音は、ごはんのあとなどに毛づくろいをする音。キレイ好きなうさぎはごはんのあとに体を舐め、体を清潔に保っているそうです。本書では、両手を口に当て、舐めているようなうさぎの姿と、部屋の中で3匹のうさぎが毛づくろいをするシチュエーションが描かれています。
「くしくし」という音は、うさぎを飼っている人ならピンとくるかもしれませんね。飼ったことがない筆者は、耳をすませて聞いてみたい…という興味が湧いてきました。
うさぎのそばには、ミニチュアのテーブルセットやお手入れ道具が置かれていて、毛づくろいをしながらおしゃれをしているようにも見えます。他のページにも、うさぎのぬいぐるみやスリッパ、にんじんの形をした文房具など、うさぎに関するグッズがたくさん描かれ、そこかしこに作者の“うさぎ愛”を感じずにはいられません。パステル調のメルヘンな世界観にも癒されます。

ページをめくっていくと、「そういえば…」と、あることに気づくはず。うさぎは人間と一緒に暮らしているのです。音を出して、ごはんをおねだりするうさぎ、おなかを見せてくれるうさぎ…。音を出すうさぎの習性は、人と暮らす時のコミュニケーション手段。鳴くことはなくても、人はうさぎと気持ちを通じ合うことができるようですね。
うさぎファンのみならず必見なのは、膝をついている飼い主に擦り寄って、うさぎが甘えているところ。こちらを見上げる大きな瞳のかわいさといったら…! うさぎは人に懐かないと思っていたので、こんなふうに甘えてくることに驚き、同時にキュンとさせられました。うさぎのリアルな仕草や、飼い主に向ける絶妙な表情など、うさぎに対する愛情があふれた作者の画力にもたびたび魅せられます。
登場するうさぎの種類の多さにも注目を。ネザーランドドワーフ、レッキス、ホーランドロップなど、色も模様も、耳の形も、みんな違って、みんなかわいい。
人と暮らすうさぎの様子が描かれた本書は、飼ったことがある人にとっては“あるある”かもしれません。飼ったことがない人も、音を通して人とコミュニケーションを取るうさぎの姿に愛おしさを感じられること必至です!
文=吉田あき