【Vol.11】特別審査員 つむぱぱさんインタビュー(後編)「絵本×動画で“あたらしい絵本”が生まれることに期待!」

文芸・カルチャー

更新日:2025/2/3

 2024年11月に作品募集をスタートした『第1回 読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』もいよいよ締め切り日が迫ってまいりました。(2025年1月31日締め切り)

 連載の後半では、特別審査員の方へのインタビュー後編をお届けしています。vol.11に登場していただくのは人気クリエイターつむぱぱさん。「新しい絵本コンテストだからこそチャンスがあるのでは?」とおっしゃるつむぱぱさん。作品を生み出していく具体的なアドバイスも話してくださっています。ぜひ最後までお楽しみください!

つむぱぱ(イラストレーター)
娘「つむぎ」と息子「なお」、そしてママの4人家族。ほっこりとしたイラストで、家族の何気ない日常を漫画で描き、子育て世代を中心にSNS総フォロワー数約140万人の人気クリエイター。コミックエッセイ『きみはぱぱがすき?』や、絵本『トミカとトム ぼくのたんじょうび』などの出版、百貨店での展覧会、さまざまなブランドとのコラボなど多彩な活動を展開。

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絵本×動画で“あたらしい絵本”が生まれることに期待!

――「あたらしい絵本大賞」というタイトルの印象や特別審査員になった感想はいかがですか?

 僕は絵本を何冊か描いてますが、自分が絵本のプロだと思ったことは一度もないんです。あくまで今回は読者側といいますか、パパとして審査するという、とても気軽な立ち場で参加させていただければと思っています。

――まさに、そういう「子育てを楽しむ」という視点がありがたいです!「こんな絵本が読んでみたい」というような希望はありますか?

 子どもたちは大人が想像している以上にクリエイティブで、絵本だってただの読み方をしないですし、なんなら自分たちで勝手におはなしを作って遊んでしまうことだってありますよね。絵と文字があって、大人が子どもに読み聞かせるといったものが「絵本らしい絵本」だとすると、そこから少しはみ出しているような絵本があってもよいのかなと思います。

 例えば、文字のない絵本や擬音しか出てこない絵本なんてものも登場していますよね。そんな風にある種の制約をかけることで、今まで見たことがない絵本が、「あたらしい絵本大賞」を通じて生み出されると、とても有意義なコンテストになるのではという期待があります。

――「あたらしい絵本大賞」は、デジタルデータでの応募という点も特色です。つむぱぱさんの制作環境はいかがですか?

 僕は最初からデジタルです。絵本やInstagramの漫画はペンダブレットを使っていましたが、今はiPadで「Procreate®」というアプリを使っています。

 デザインの仕事でペンタブレットを使っていたので、その流れで使っています。本当は、手描きで描きたいなという思いは、ずっとあります。やっぱり伝わる温度感が違うなと思っていて。でも、手で描くのとデジタルで描くのではスキルが違うので、手描きを1から始める時間的余裕が持てなくて、結局今もデジタルで描いていますね。

――つむぱぱさんのTikTok動画の「しりとり」シリーズもすごくおもしろくて、ずっと見ていられますが、ふと「これも“あたらしい絵本”の形の一つなのかな」と考えてしまいます。お子さんたちの生の声に合わせて、アニメーションを作っていますよね。「あたらしい絵本大賞」には「動画部門」もあるので、こういった作品もアリなんじゃないかと。

 音声もアリなんて、いいですね! 実は、本物の声にアニメーションをつけるという手法自体、意外と今までやられてなかったと思うんですよ。たぶん、僕の動画をみなさんが見てくださったり、「おもしろい」と言ってくださるのは、シンプルにコンテンツとしての新しさという部分もあるのかなと思っていて。

「あたらしい絵本大賞」の話を聞いて最初に思ったのが、たった1年でも大幅に技術が進歩し変化していく現代だからこそ、チャンスもすごくあるんじゃないかということ。今までの絵本ではできなかったことを、技術によってブレイクスルーするみたいな発想で考えられたら、まだまだおもしろいものがたくさんあると思います。

――実は絵本と動画は相性が良く、今後さらに豊かな世界が生まれてくるのではないかと考えています。つむぱぱさんが「動画部門」の応募作に期待していることはなんですか?

 動画部門は、特に「絵本」という定義にこだわらず、「これが自分の絵本だ」と思ったら、絵本として応募してほしいですね。それはもう、期待いっぱいです! 絵本には「ページをめくって展開する」という概念があるので、そこに「動画」という手法がかけ算になったら、どんなものが生まれるのか! そもそも世の中に「動画絵本」が少ないですし、できることはたくさんあると思います。僕のInstagramでやっているのも絵本と言ってしまえば絵本なので、ハッとしました。僕も応募しちゃおうかな(笑)。

紙の絵本が大事にしてきたことから、あたらしい絵本を考えてみよう

――つむぱぱさんの創作の源は、子どもの姿を作品にして残しておきたいという思いからだとおっしゃられていました。それを今度は自分だけでなく、みんなに見せる作品や動画にしていくためのコツといいますか、そのために考えられていることなどを教えていただけますか?

 コツ......になるかどうかはわかりませんが、僕のケースをお話しますね。僕は元々、アートディレクターとして、テレビCMの企画を考える仕事をしていました。テレビCMは、15秒、30秒という尺の決まりがあり、その中で起承転結をつけて、視聴者の耳目を引かなければならないという、すごく難しい仕事なんです。

 1本のCM作品を作るのに、100のアイデアを考えます。それくらい日々企画を考えて、どんなオチをつけたらいいのかとずっと考えていました。その基礎があるので、Instagramの10枚の画像にエピソードを入れて、最後にオトす、という流れを考えることができる。楽しんでもらう方法論の基礎は、たぶんそこにあるのではと思います。

 先ほど話題に出た、新しい技術を組み合わせて新しい絵本を作るとなったときに、絶対に外してはいけないのが、「絵本に受け継がれている、古典的で大切なエッセンス」を大事にすること。新しいことと古いことのバランスをうまく取っていくところが、ひとつポイントになってくるのかなと思っていて。「起承転結がはっきりしている」など、絵本がずっと大切にしていることはたくさんある。めくるときにダイナミックな展開を期待する読み手の気持ちに、どう応えるのか、はたまたどう裏切るのかみたいな部分を、きちんと計算するのも大事かなと。

――絵本のエッセンスと一度しっかり向き合ってから、新しいものを使うのか、変えるのかを考えてみようということですね。「人に見せる」という意味では、アナログもデジタルも基本的には同じ作業が必要ですね。

 そうです。「なにか新しいことをやろう」というところから考えるのではなく、順番を守って、絵本で大切なことはなんだろうという発想から始めると、「ここをこう変えたほうが、新しく見せられるんじゃないか」というアイデアが浮かび、絵本というフィールドの中でおもしろいことができるのではないかと思います。

――絵本ナビとしては、実際に手に取って楽しめる紙の絵本が大切だという考えは大前提としてありますが、現実として、今の子どもたちの周りには、たくさんのデバイスやメディアがあふれています。デジタルの本の需要も増えています。今後生まれてくるデジタル絵本の可能性や、逆に「ここだけは変わらないで欲しい」と思うところはありますか?

 少しだけ未来の話で想像すると、毎回読むたびに絵やおはなしが違う絵本が、AIで自動生成されてタブレットに表示される世界が、もうすぐそこまで来ていると思います。

 AI化の波が押し寄せる中で、人間の手で創造するものにどんな価値を与えられるのか。あるいは、紙であるからこそ発揮できる価値はなにかといった、対AIという視点での新しい価値の作り方というのが大事になってくると思います。今、僕たちは、その過渡期というか、大きな波が押し寄せる一歩前の時間を歩んでいるのではないかと。

 もしかしたら「あたらしい絵本大賞」から、今後の絵本の在り方を決定づける一打が生まれるかもしれない。淘汰されるというよりは、新しい価値を見つけようというフェーズに入ってくると思いますので、それがどんな世界なのかと想像すると、ワクワクしますね。

「あたらしい絵本大賞」は新しいコンテストですから、正直だれも正解がわからない。僕自身も、どんな作品が応募されるのか予想がつきませんし、何を基準に評価したらよいかと迷うと思います。そういった意味で、自分がこれがいいと思ったものを応募する場としては、ぴったりなのではと。何も気負うことなく、どんどん参加して欲しいなと思いますね。1回目は、出した人が勝ちです!

――ありがとうございました!

インタビュー: 磯崎園子(絵本ナビ編集長)
文: ナカムラミナコ

『読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』の詳細はこちら

本記事は「絵本ナビ」から転載しております

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