北大路公子の軽やかな“養生日記”。乳がん治療後、かつては体感2000mあった山を登った体力づくりを綴る『キミコのよろよろ養生日記』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/2/7

キミコのよろよろ養生日記北大路公子/集英社

 人のボヤキってこんなに面白いものだっけ。愚痴から派生する暴走妄想ワールドに何度フフッと吹き出したことだろう。そんなエッセイを書くのが、北大路公子さん。昼酒と猫を愛するぐうたらエッセイストだ。榮倉奈々さんや長澤まさみさんを初め、芸能人にもファンが多い彼女の2年ぶりの新刊がついに発刊された。その名も、『キミコのよろよろ養生日記』(北大路公子/集英社)。「どうして『養生日記』?」と疑問に思えば、キミコさんは乳がんを患い、治療を受けていたのだという。だから、本書で描かれるのは、大病後、体力回復のための奮闘記だ。だが、そんな状況でもキミコ節は全開。元々のキミコさんファンも、読んだことはないという人も、キミコさんの愉快な日常から目が離せなくなってしまうに違いない。特に、大病を患った後の人は、彼女の日々に何だか救われた心地になるのではないだろうか。

 乳がんの手術後、化学療法を受けたキミコさん。治療を終えた後も身体に蓄積された薬はなかなか抜けず、副作用は「最終回スペシャル」として大暴れ。雪深い北海道で、2階にある自宅の玄関まで上がる20段の階段はチョモランマ級の雪山となって目の前にそびえ立ち、体重は体感四トンから一向に減らず、何をするにも身体が重く、息切れも伴ってとにかく動くのが辛い。だが、体育会系担当編集者の叱咤激励によって、運動を始め、まずは1日1000歩の散歩。続いて、縄跳び。さらには、中学生の登山遠足の時の体感では標高2000メートルあった藻岩山への山登りにまで連れ出されてしまう(本当の標高は531メートル)。

 普通、「養生日記」なんて、重い雰囲気になってしまって当然のはずだ。だけれども、身体はかなり辛そうなのに、キミコさんは軽やかな文章でそれを綴る。「子供の頃から疲れやすく、持久力もなく、おまけに感想という名の文句がだだ漏れる体質で、『ああ疲れたー』『もう嫌だー』『これの何が楽しいの?』と言い続けることによって逆に自らを洗脳、さらに疲労を強く実感させるという能力の持ち主である」というキミコさんは、いつでもどこでもボヤキっぱなし。だが、それがいちいち面白いのだ。的確な描写は読み手の想像をかきたて、化学療法の経験がなくとも、「なるほど副反応とはそういうものなのか」と思わされるし、さまざまな運動に挑戦する様子は、「あー、私が同じ立場でも同じことを思いそう」と共感してしまう。

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 特にキミコさんのエッセイの面白さは、突飛な妄想が混ざるところだ。散歩中には、虎になった友人にすぐに声をかけた『山月記』の袁傪の凄さを思い、妹の紹介でスポーツジムに行けば、コーチのあまりの元気さに「光の国に転生した闇の世界の女王」のような気分になる。そんな妄想の世界に何度も笑わされ、そして、クライマックスの登山のエピソードは抱腹絶倒。妄想の中で、宇宙人に「オマエたちニンゲンは何のためにロープウェイを発明したのだ?」と話しかけられながらも、ロープウェイに頼らず、自分の足でどうにか山を登り切る。登山後にビールを6本パック買うキミコさんと、「ええっ? パックで?」と驚く編集者たちの姿は、もうおかしくてたまらない。

 キミコさんは根がぐうたら。怠け者を自負し、不平不満をたくさんつぶやく。だけれども、エッセイが進めば進むほど、散歩は習慣づいて、体力もついていく。……そうか、愚痴ったっていいのだ。きっと、このエッセイを読めばあなたも、弱音吐きまくりなのに何だかんだ前向きに暮らすキミコさんの姿に笑わされながらも、不思議と元気付けられるだろう。

文=アサトーミナミ

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