「孤独になる前にサイゼリヤに行きませんか?」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない㉕
公開日:2025/2/7

『団地のふたり』

思い出のアルバムを開いたようなセピア色の夕暮れ、通りかかった団地からおいしそうな匂いがこぼれている。
カレーライスのような、豚汁のような、シチューのような、肉じゃがのような、心温まる優しい香り。
最近、「団地のふたり」を読んでから、もう一度住むことができたらいいのになぁ…と思うことが増えた。
団地で生まれ育った幼馴染の女ふたりが、成長して恋愛をして結婚をしたり、夢だった仕事をしたりといろんな人生を経て、50歳をすぎたころ、なんやかんや団地に戻ってきてからの日常が描かれている。
一緒に手料理を食べたり、夜にはコーヒーを飲みながらケーキを食べたり、時には団地の住民たちの抱える事件に巻き込まれたりしながら、なんとか今日も生きてのんびり暮らしていく。
わたしも幼い頃は、団地に住んでいた時期があった。
まだ幼稚園にも通っていなかったので、よく団地の公園の砂場で、泥団子をつくったりして遊んでいた。
自然と、どちらからともなく団地の友だちができて、一緒にびよんびよんとホッピングで遊んだり、休日は映画を見に連れて行ってもらったりもした。
席が埋まっていたので手すりの近くにしゃがみ、『ドラえもん のび太の太陽王伝説』を鑑賞した。
入場特典でスライドパネルがもらえて、大好きなしずかちゃんが当たらず、ぽろぽろ泣いた記憶がうっすらある。
仲良かった団地の友だちの顔を、今ではほとんど思い出すことはできないけれど、夕陽に負けないくらい綺麗なオレンジ色で花柄のワンピースが似合っていたあすかちゃんのことだけは覚えている。
「わたしだけ、変わらないまま」

夕方という時間は、お腹が空くし、昔のことをふと思い出させてくる。
そうだ、混む前に夕飯をさくっと終わらせようと家を出たんだった。
今日はスパゲッティが食べたかったので、イタリアン居酒屋認定をしているサイゼリヤにおじゃまします。
子供の頃は、たらこスパゲッティを飽きるほど食べたけど、今はペペロンチーノのようなシンプルなスパゲッティを好むようになった。
一緒に乾杯できる幼馴染はいないのに、調子に乗ってスパークリングワインを頼んでしまった。
しかもボトルで。
明日は強制的に休日ってことでいいかしら。
学生時代は、仲間たちとサイゼで全メニューを制覇しようとして、次の日のことなんて考えることもなく、マグナムを海賊のように飲み干し、当たり前のように三日酔いで授業をサボってしまったこともあった。
いつまでもふざけて笑い合えると思っていた仲間たち。
スーツが似合うようになり、社会に揉まれてからは、一緒にサイゼで酔っ払ってくれなくなった。
落ち着いたと思った頃には、結婚して子どもがいて、お酒どころか一緒にごはんを食べることすら難しくなっていった。
おつまみに頼んだサイゼの柔らか青豆の温サラダだけは、グリンピースが苦手なわたしでも食べることができる。
克服できたのか?と思って普通にシュウマイに入っているグリンピースを食べてみたら、全く克服できていなかった。
わたしだけ、変わらないままだ。
