「孤独になる前にサイゼリヤに行きませんか?」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない㉕
公開日:2025/2/7
「あすかちゃん」

わたしは、途中で団地からおばあちゃん家に引っ越してしまったけど、団地で仲良くしてくれていたあすかちゃんとは定期的に手紙で近況報告をしたりしていた。
最後に会った場所は、サイゼリヤだった。
その頃は、まだお酒が飲めない歳だったので、ドリンクバーと奮発してトリフアイスクリームを注文したことは覚えている。
今では、お酒の力なしで友だちになることはできないので、ちょっとだけ過去の自分が羨ましい。
サイゼで門限ギリギリまで、思い出話をしたり、新しい環境にうまく馴染めない話、好きなアイドルの話なんかで盛り上がって、またすぐに会おうねと話したきり、会ったのはそれが最後だった。
その後も、手紙のやり取りはしていたけれど、次第に返事はなかなか返ってこなくなった。
始めたばかりのSNSで検索してみたら、あすかちゃんが楽しそうに部活の友達とおそろいのキーホルダーをつけて無邪気に笑うプリクラがタイムラインに流れてきたのだ。
足跡という名の履歴をつけてしまった気まずさと同時に、ああもう生きている世界が違うんだと別れに似た寂しい気持ちになったんだ。
家に帰れば、家族もいて、学校に行けば友だちもいるはずなのに、ひとりきりになってしまったような孤独感が、しばらく消えずにいた。
おひとり様にも親切な辛味チキン2本とポップコーンシュリンプ5本、ハンバーグやポテトが乗ったミックスグリルは、あなたに決して孤独を感じさせることはない。
グラスワインを頼めば1000円で夢を見ることができる。
「いつかまた、あの団地で」

おひとり様プレートに乗っていた、大好物のカリッとポテト。
いつの間にかポテトのグリルに変わってしまい、メニューから跡形もなく消えてしまった。
大好きだったカリッとポテトは、さようならを告げる時間もないまま平べったいポテトのグリルに変わってしまって、やっぱり寂しい。
もうここ五年間くらいは出会いも別れもほとんどないけれど、サイゼは運命の出会いとあの頃に体験した切ない別れもドラマみたいに味見させてくれる。
大人になれば傷ついても、悲しいことがあっても、へっちゃらになると思っていたけど、全くそんなことはないので困ってしまう。
何歳になっても別れには慣れない。
でもそれは本当に終わりを意味するのだろうか?
「団地のふたり」の幼馴染ふたりも、ずっと一緒にいるわけではなかった。
保育園のときから、いつも一緒で仲が良くても、環境がお互い変わるにつれて価値観がすれ違い、どんどん疎遠になっていった。
疎遠になったけど、団地に戻ったことをきっかけに、一緒にふざけて歌ったり、喧嘩したり、深夜に遅番のイケメンくんに会うためにコンビニに行ったり、休日は公園でピクニックをしたり、歳をとってまた仲良くなることもあるんだということを教えてくれた。
もしかしたら巡り巡って、あすかちゃんとまた一緒に笑い合える日が来るのかもしれない。
誕生日が来るたびに、また歳をとってしまったか、孤独に近づいていくのかと億劫になっていたけれど、「団地のふたり」がわたしの未来をほっこり明るく照らしてくれる。
こんな人生を歩みたいなぁ…と、ボトルワインを飲みながら、すでに二日酔いの予感。
時の流れの速さを痛感する。
サイゼリヤの絵画の中で退屈そうにしている天使たちが、そろそろ迎えにくるかもしれない。
こりゃあ、まずい。
でも大丈夫。
飲みきれない分は持ち帰ることができるのでご安心を。
酔い夜に乾杯!
<第26回に続く>