恋愛下手なアラサー女子が運命の相手と出会ったきっかけは… 偶然から始まる、大人の優しいピュアラブストーリー!【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/2/14

おひとり様が、おとなり様に恋をして。佐倉伊織:著、欧坂ハル:イラスト/スターツ出版

 多くの人にとって、他人に素の自分を見せるというのは怖いもの。本当は大事な相手にこそ飾らない自分で接するべきなのだろうが、実際はなかなかそううまくいかない。ついついよく見せようと取り繕ったり、かっこつけたりしてしまう。でも、もしそれができない状況で出会ったらどうだろう?

おひとり様が、おとなり様に恋をして。』(佐倉伊織:著、欧坂ハル:イラスト/スターツ出版)は、そんな偶然の、タイミングがいいのか悪いのか分からない状況から始まる大人のラブストーリー。本作は、2025年2月10日にスターツ出版より創刊されたばかりの新たなレーベル「ベリーズ文庫with」第1弾として刊行された作品のひとつ。「恋はもっと、すぐそばに。」がコンセプトの通り、「なんでもない日常に“恋に落ちるきっかけ”が紛れていたら……」と思わずドキドキしてしまう運命の出会いを提供してくれる。

 この物語の主人公は、恋愛が下手で結婚を諦め気味なアラサー女子・尾関万里子(おぜき まりこ)。カーリース会社で事務をしている万里子は、日々クレーム対応などの面倒な仕事を押しつけられ、そのストレスを晴らすため週末に飲んだくれて清算する生活を送っていた。事件が起こったのは、その酒盛りのためコンビニへ缶チューハイとおつまみを買いに行った帰り。鍵を落としてしまい、すっぴんに眼鏡にボサボサ髪、ラフすぎる部屋着とサンダルという状態で家に入れなくなってしまったのだ。しかも携帯すら家の中。自分の間抜けさに脱力する万里子の前に現れたのは、シャツにネクタイ姿のイケメン男性・沖俊典(おき としのり)だった。

advertisement

 隣の角部屋に住んでいるらしい沖は、万里子の姿に引くこともなく一緒に鍵を探してくれた。しかもどこかで会ったことがあるような…と思っていたら、なんと以前スポーツショップで万里子の祖母にぴったりのスニーカーを選んでくれた優しい男性だったのだ。万里子は「こんなことがあるなんて」とドキドキしつつも、自分なんかが相手にされるわけない、と諦めモードでいたのだが。共にお酒好きなこともあって少しずつ距離が縮まっていき――。

 一方、会社では嫌な仕事を押しつけられたり、聞きたくもない愚痴大会に付き合わされたり、後輩の指導がうまくいかなかったりと、相変わらず日々ストレスまみれ。おまけにそうやって頑張っているのに、面倒を見ていた後輩に実は見下され悪口を言われていると知り、万里子はみんなの前で怒りを爆発させてしまう。結果、万里子は会社で孤立状態となり、自分が間違っていたのか?と心が折れそうになる。そうしてボロボロになった彼女に気づき、「悪いのは間違いなく後輩だ」と一緒に怒り、そっと支えてくれたのも沖だった。

 四面楚歌となりつつあった万里子にとって、沖の存在はとても大きかったことだろう。正義が勝つとは限らない社会だからこそ、弱っているときに味方になってくれる存在はとても大切だ。筆者も沖のような隣人がほしいと同時に、万里子みたいに頑張っている人の味方でありたいと強く思った。

 人間は完璧ではないし、そう弱くもないが強くもない。私もひとりでいるのが好きなタイプだが、完全なる孤独は嫌だと思う。だからこそ、配偶者や恋人、家族、友人、仲間など気の置けない相手が必要なのだ。でも実際は、大人になればなるほどそうした関係を構築するのが難しくなっていく。表面をうまく取り繕うことに慣れてしまうがゆえに、それを取っ払うことに不安や怖さを覚えてしまう。でも実は、きっとそれはお互い様。本音を言い合える、心許せる相手を求めているのは自分だけじゃない…はず。

 万里子と沖は、仕事や心の傷に翻弄されながらも、少しずつ互いを思い合う心を強めていく。そして最後には!? 出会いが思いがけない不意打ちだったからこそ、万里子がオフモードだったからこそ、ふたりの距離はこんなにも早く縮まっていったのだろう。そう考えると、ズボラ丸出しの姿で鍵をなくしたのはラッキーだったのかもしれない。大人になると、他人からどう見られるかを意識しすぎてしまうが、案外、そういう自然体の姿を見せることで、心の距離が一気に近づくこともある。ふたりのこれからが幸せなものであることを願うと同時に、筆者も互いに思いやりを持ちながらもありのままでいられる仲間を大事にしていきたいと思った。

文=月乃雫

あわせて読みたい