恋愛が億劫になってしまった大人へ。不器用なふたりに焦れキュンが止まらない! ドキドキオフィスラブ【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/2/14

恋より仕事と決めたけど宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版

 恋はきっとすぐそばにある。「もう恋なんて」と思っていた人も、ずっとおひとり様で生きていくつもりだった人も、突然恋に落ちる日が来る。

 そんな運命の恋を信じさせてくれるのが、『恋より仕事と決めたけど』(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)。スターツ出版から生まれた、新たなレーベル「ベリーズ文庫with」の1冊だ。このレーベルのコンセプトは「恋はもっと、すぐそばに。」。大人になるとどんどん恋愛が難しくなるが、なんでもない日常にこそ“恋に落ちるきっかけ”は紛れているもの。手を伸ばせば届きそうな距離にいる相手へ抱く恋心を描き出したこのレーベルの作品には、ドキドキが満載。特に『恋より仕事と決めたけど』は、不器用なふたりのオフィスラブに胸がキュンとさせられる。

 主人公は、志都(しづ)。大手食品専門商社に務めている30歳だ。仕事に熱く、自他ともに厳しい彼女は、同僚からは近寄りがたいと思われており、元彼からも「たくましくてかわいくない」とフラれて、恋愛が上手くいかない。もうおひとり様で生きていこうと、グレードが高めの賃貸マンションで暮らし。独身を謳歌し仕事に邁進している彼女だが、ある日のこと、海外駐在から帰国した会社の先輩・昴矢が同じマンションに引っ越してきたことで、日常に変化が。その上、海外営業部に異動になった志都は、昴矢とバディを組むことになり、仕事でも急接近。何でもひとりで抱え込もうとする志都だが、甘やかし上手な昴矢と過ごすうちに、いつの間にか、彼のことが気になって仕方がなくなっていた。

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 本当にふたりの恋はもどかしい。昴矢は根っからの人たらしな上に、爽やか系イケメン。挫折など知らなそうに見える彼のことを志都はどこか胡散臭く感じ、苦手にさえ思っていたはずだった。だが、昴矢と関わるうちにその印象は変わっていく。昴矢が向けてくれる優しさや励ましの言葉には嘘がない。おまけに、昴矢も志都と同様に、恋愛にコンプレックスがあり、それゆえに仕事に励んでいた。そう、ふたりは似た者同士。惹かれ合わないはずがないのだ。だが、昴矢にしろ、志都にしろ、彼らはとことん不器用。お互いを思い合っているのに、なかなか上手く伝えられない。そんなふたりの恋模様を見れば見るほど、じれったさは募る一方だ。

 大人になるにつれて、恋愛の難しさは上がる。志都や昴矢のように、恋愛にコンプレックスを抱えている人は少なくないだろうし、何より胸の内を他人に明かすにはかなりの勇気が必要で、なかなか心を開く覚悟はできない。そんな実感があるからこそ、こんなにもふたりの恋模様を、自分ごとのように感じてしまうのだろう。志都と昴矢の姿に、心臓は高鳴り、焦るようにページをめくる。そして、読み終えた時、不足していたときめきを摂取したような、幸せに満ちた気持ちになった。「ああ、私もふたりみたいな恋をしてみたいな」と思わずにはいられない。恋から遠ざかっている人も、今まさに恋をしている人も、この本で日常にときめきを手にしてもらいたい。不器用な大人ならではの、焦れキュンに身悶えるに違いない。

文=アサトーミナミ

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