認知症Uターンのカギは“スクワット”にあり?専門家に聞く「認知機能改善30秒スクワット」の効果【インタビュー】

健康

PR 公開日:2025/2/15

 記憶力の低下が心配なシニア層や、高齢の親を持つ世代にとって気になるのが、認知症だ。一度、かかると回復ができない絶望的な疾患というイメージを持っている人も少なくないのではないだろうか。そんな認知症の初期段階や、軽度認知障害(MCI)患者の認知機能回復に効果が見込める運動療法を紹介しているのが、書籍『認知機能改善30秒スクワット』(日本文芸社)だ。

 著者の健康運動指導士・本山輝幸さんと、認知症専門医で、本山さんが運動を指導する「メモリークリニックお茶の水」の理事長・院長の朝田隆さんに、認知機能改善30秒スクワットの効果や、働き盛りの子ども世代が親と一緒に運動に取り組むコツを聞いた。

「メモリークリニックお茶の水」の理事長・院長の朝田隆さん(左)、健康運動指導士・本山輝幸さん(右)

認知症は初期ならトレーニングで回復できる

――認知症は不治の病と言われていますが、本山さんは、MCIや初期の認知症ならば認知機能は元に戻せるとおっしゃっています。認知症になってから実際に元に戻った方はいるのでしょうか?

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本山輝幸さん(以下、本山):認知症は、初期の段階であれば認知機能を元に戻せると私は考えています。私が今まで指導してきた患者さんの中で、治らないと言われていた認知症の初期段階や軽度認知障害(MCI)の方々、1000人以上が健常者レベルに戻りました。そしてその方々は、運動を続けたことで、ひとりも認知症やMCIに戻っていません。

 23年前、私は国の「認知症予防プロジェクト」に参加して運動指導を担当しましたが、そこから20年以上にわたる研究を通して、認知症の初期やMCIの方の認知機能を元に戻す「本山式感覚神経トレーニング」を確立しました。

――感覚神経にアプローチするというメソッドはこれまでなかったんですか?

本山:以前から運動が認知症予防に効果があることはわかっていたんです。運動で脳内にネプリライシンという酵素が増えて「アミロイドβ(ベータ)※」というたんぱく質を分解したり、運動によって脳由来神経栄養因子の発現が増えて海馬が発達して、認知機能が向上するといったエビデンスはたくさんありました。
※認知症患者の60%以上がアルツハイマー型認知症であり、アルツハイマー病の発症のしくみは諸説あるが、「アミロイドβ」や「タウ」といった異常なたんぱく質が脳にたまることが原因とされている

 それでも、私が研究や運動療法の指導を通じてわかったのは、運動をしていても認知症を発症する人が多いこと。私はもっと根本的な理由があるのではないかと研究を重ねて、感覚神経が鈍い人は認知症になりやすいと発見しました。

 感覚神経は脳と筋肉をつなぐ神経で、これを通じて体を動かしたときの刺激が脳に戻ります。その感覚神経を刺激することで認知機能を戻す方法が「本山式感覚神経トレーニング」、そしてそれを自宅でもできるよう簡易化したのが「認知機能改善30秒スクワット」です。

――本山式感覚神経トレーニングや、認知機能改善30秒スクワットが認知機能に作用する仕組みを教えてください。

本山:筋肉を使うと、筋刺激という微弱な電気が生じます。その刺激が背中の脊髄を通って脳幹を通り、小脳を介して大脳に戻ってきます。感覚神経を再生して筋肉と脳をつなげることで、体を動かしたときの筋刺激が体内を通ってダイレクトに脳に上がるようになります。その刺激が、まず後頭部の脳幹網様体というところを通過します。その時、脳に生き残っている細胞を目覚めさせる作用が起こるんです。

 筋刺激が脳に上がると、脳に生き残っている脳細胞が死んだ脳細胞の代わりの働きをする「代償作用」も起こります。これが私のトレーニングによって、認知機能が蘇る一番の理由だと考えています。そのためには、トレーニング中の筋肉に意識を集中させて、刺激を強く感じ取ることが重要です。

 MCIや認知症の初期の方は感覚神経が全員、鈍い。感覚神経を30秒スクワットなどの筋トレで回復させると、徐々にトレーニング中の筋肉への刺激がわかるようになります。その段階で患者さんの認知機能を検査すると、必ず向上しているんです。

旅行の記憶がないほど認知機能が衰えた患者の記憶力が若返った

――朝田院長のクリニックには、どういうきっかけで認知症の診察に訪れる方が多いですか?

朝田隆さん(以下、朝田):自分で来られる方、家族に連れられて来られる方が半々ぐらいです。認知症を疑うきっかけとして多いのは、曜日や日にちがわからなくなることや、道に迷いやすくなること。たとえば病院に検査に行っても、病院内で迷ってしまって、戻るまでに時間がかかる方も多いんです。

本山:認知症が進んでくるとまず頭頂葉に影響が出るのですが、頭頂葉は、立体の理解に関わる部分です。つまり、地図の見方や、自分の居場所がわからなくなって道に迷いやすくなるんですね。ケアレスミスが増えたとか、同じことを何度も言うという方も多い。そうなったらためらわずに病院に行っていただきたいです。認知症ではなかったとしても、違うとわかれば安心ですしね。

――家族と一緒に来られる方は、認知症と認めたくなくて受診をためらう方も多いのではないでしょうか?

朝田:そうですね。認知症に絶望感を抱く方も多いですから。家族の方々は、「健康診断に行きましょう」とか、「私も受けるから一緒に検査を受けよう」と声をかけるなど、工夫して来てくださいますよ。

本山:認知症といえば「早期発見、早期絶望」と感じる方もいるかもしれませんが、初期やMCIの段階でわかればまだ間に合います。私の運動療法で感覚神経をつなぐことで、体の刺激がわかるようになった人は、全員、治っています。治った患者様の中には、「海馬の萎縮が進みすぎているため1年後の寝たきりを覚悟してください」と言われた方もいます。ご本人が努力をして、刺激を脳に上げる運動を続けていただけば、認知症は治りますので、希望を持っていただきたいですね。

――本山さんがこれまでご指導された患者さんの印象的なエピソードを教えてください。

本山:若年性アルツハイマーは進行が早くて治らないと言われているのですが、認知機能が元に戻るどころか、若返った方がいます。60歳の時に初めて来られたある女性の患者さんは、発症当時、頭の中に真綿がぎっしりつまって、小さな針の隙間から外を見ているような感覚で、毎日泣いていたそうです。私の運動療法を受けて約3年経った頃、筋刺激がわかるようになり、頭のモヤモヤが消えて、7年経った今は、住所を一度聴いたら覚えてしまうぐらい記憶力が回復して、介護ヘルパーのお仕事もされています。

 認知症になって落ち込んでいる間、お姉さんが気晴らしに海外旅行に何回か連れていってくれたそうなのですが、旅行に行ったことも覚えていないそうなんですね。それほどの認知機能だった方も回復しているんです。

――朝田院長は、認知症専門医の立場から本山式感覚神経トレーニングの効果をどう評価されていますか?

朝田:運動が認知症予防に良いというのは一般的に言われてきましたが、本山さんのアプローチは、自分が使っている筋肉に集中することで、逆行的に頭に刺激を伝えるというところが画期的です。

 デュアルタスクや有酸素運動など、認知症予防のための運動療法はいろいろあったのですが、本山さんのような逆行性を鍛えるメソッドはまずありません。実際に私のクリニックでも運動療法を指導していただいて、効果が出ているのを見ています。

 何よりすごいのは、本山さんのファンがたくさんいること(笑)。私の印象では、社会的に活躍されている理論派の方々からの評価が高いです。本山さんはとてもロジカルで、本山さんの言われたように体を動かせば効果が実感できるようになりますから、他の運動療法には代えがたい魅力があるのだと思います。

本山:そう言っていただけて嬉しいです(笑)。ありがとうございます。

30秒でも集中して、毎日欠かさず続けることが重要

――本山式感覚神経トレーニングで体をしっかり動かすことがもっとも効果的だと思うのですが、本書で紹介されている認知機能改善30秒スクワットでも、効果は十分、見込めるのでしょうか?

本山:運動療法を指導していて感じるのは、人が集中して取り組める時間は30秒ぐらいだということです。30秒の間、集中して筋刺激をあげて感覚神経にアプローチすれば効果は上がります。ただ、1日だけではダメです。毎日欠かさず続けることで、感覚神経を強化できます。

朝田:短時間でもいいので、集中することが大事ですね。運動経験がない方や、運動に苦手意識を持ってるシニアの方にいきなり長時間のトレーニングをやりなさいと言っても難しい。本山さんが勧めているのは、現実的にできることから始めようということです。そこから少しずつ、さらに動けるようになっていけばいいわけですから。

 でも、僕は30秒でもかなりきついと思いますよ(笑)。特にシニアの皆さんには大変です。30秒でも十分、脳に刺激は届くと思います。いかに習慣化して効果を高めるか、それこそが本山式の真骨頂だと思います。

――認知症は当事者だけでなく働き盛りの家族にも影響を与える疾患ですが、そんな社会課題の解決にも、本山式感覚神経トレーニングは有効だと思いますか?

朝田:厚生労働省の調べによると、認知症の予備軍である軽度認知障害(MCI)の患者数は、10年前は400万人だったのが、2022年には550万人に増えています。本山さんのトレーニングは、この予備軍の段階で本気で取り組めば効果がありますから、対処できる方は多いと思いますね。

 今、介護離職10万人という状態が10年以上、続いています。地方に暮らす認知症の親の介護が必要で、仕事を辞めざるを得ない方がいるわけです。今、企業は介護離職の問題への対処に一生懸命です。疾患による寝たきりだけでなく、親世代の認知症について頭を悩ませている方が多いですよね。

――そうした状況がさらに深刻化していく中で、私たちはどう認知症の問題に向き合っていけばよいのでしょうか?

朝田:日本老年精神医学会が、13の質問で予備軍を発見する「J-MCI」というテストを開発していて、健康診断などでの導入が進んでいます。そういうスクリーニングを受けることで、初期の段階で認知機能の衰えを発見できる環境を整えることが大事だと思いますね。

――その段階で適切に感覚神経トレーニングを取り入れたら、認知機能がUターンする可能性が高いということですね。

朝田:そうですね。

――最後に、今、認知症に向き合っている方や、将来の認知症に不安を抱えている方に本山さんからメッセージをお願いいたします。

本山:MCIはもちろん、認知症と診断されても初期であれば元に戻る可能性は十分にあります。それに感覚神経というのは、筋肉だけではなく、皮膚感覚や、内臓の感覚も脳とつないでいます。体の情報をすべて脳に上げてくれるんです。

 長寿の方を調査したことがあるのですが、皆さん、感覚神経が鋭いです。体の疲れや異常をすぐ感じられるので、疾患の早期治療、早期回復ができる。そういう方が長生きをされているんですね。

 脳や体のためにも、健康に長生きするためにも、自宅で簡単に始められる『認知機能改善30秒スクワット』で、感覚神経を鍛えるトレーニングをぜひ取り入れていただきたいです。

取材、文=川辺美希、撮影=三佐和隆士