隣に住む男性とは初対面ではなかった!? お互いに感じていた既視感の正体/おひとり様が、おとなり様に恋をして。③

文芸・カルチャー

公開日:2025/2/24

おひとり様が、おとなり様に恋をして。』(佐倉伊織:著、欧坂ハル:イラスト/スターツ出版)第3回【全11回】

 アラサーの万里子は、仕事のストレスや疲れをビールとおつまみで発散する、おひとり様暮らしを満喫していた。ある夜、鍵を落として家の前で困っているところを隣人の男性・沖に助けられる。話をしていくうちにふたりは以前にも会っていたことが判明。思わぬ再開から長年恋から遠ざかっていた万里子の日常が淡く色付き始めーー。恋愛小説レーベル「ベリーズ文庫with」から刊行の、恋愛下手な大人女子によるピュアラブストーリー『おひとり様が、おとなり様に恋をして。』をお楽しみください。

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『おひとり様が、おとなり様に恋をして。』
(佐倉伊織:著、欧坂ハル:イラスト/スターツ出版)

「あれっ?」

 お礼のビールを選びにお酒のコーナーへと移動すると、彼がまじまじと私を見るので、顔を両手で覆った。

 眉毛すら描いていない顔をそんなふうに見られたらいたたまれない。一応これでも、恥じらいというものはあるのだ。……なんて、さっきは堂々と買い物に来たのだけれど。

「どこかで会ったことありませんか?」

「えっ?」

 私が感じたことを彼も口にするので、やっぱりそうなのかと思ったけれど、いつどこで会ったのかどうしても思い出せない。

「マンションですれ違ってるのかな」

「そうだと思います」

「……うん」

 彼は納得したようなしていないような気のない返事をして、ビールを一本手に取った。

「それじゃあこれ、お願いします」

「おつまみもどうぞ」

 私がおつまみも勧めると、彼はくすっと笑っている。

「律儀な人だな。お言葉に甘えるか……」

 彼はビールを持ったまま総菜売り場に移動して、迷うことなくねぎ塩牛タンに手を伸ばす。

「これうまいですよ。食べたことあります?」

「ないです。お酒が進みそう」

 かわいい乙女を装うつもりだったのに、素が出てしまった。

 おかしなキーホルダーを持ち、部屋着のままコンビニに行く、ねぎ塩牛タン好きの女子なんて、〝かわいらしい女の子〟からもっとも遠い位置にいそうだ。

 でも、もう見せてしまったので仕方がない。

「食べてみます?」

「はい」

 返事をすると、私の分まで取ってくれた。

 レジに行き、バーコードを通してもらう間に財布のファスナーを開ける。カードを取り出した瞬間ピッと音がしたと思ったら、彼がスマホで決済を済ませていた。

「えっ?」

「ああ、ごめん。癖で払ってしまいました」

 そう言う彼は、ねぎ塩牛タンを私の袋に入れる。

「それじゃあ、現金でお支払いします」

「俺、小銭は持たない主義で。だからいいですよ。さ、帰りましょう」

 スタスタと店を出ていく彼を慌てて追いかける。

「私に払わせてください。お礼になりません」

 なんとなく、最初から自分で払うつもりだった気がしてそう訴えると、彼はかすかに笑っている。

「ねぎ塩牛タン仲間ができてうれしいんですよ。もっとおしゃれな食べ物がよかったか……。まあでも、これが一番うまいからしょうがない」

 彼はひとりで納得しているが、さっき私もそれに近いことを考えていたので、なんとなく親近感が湧いた。

 マンションに戻ると、改めてお礼を言って頭を下げる。

「本当に助かりました。ありがとうございました」

「これくらいお安い御用です。俺はもうかなり長くここに住んでるんですけど、引っ越してこられたの、最近ですよね? 前は男性が住んでいらしたと思うんですけど、先日あなたのうしろ姿を見かけて、あれっ?と」

「はい。四カ月ほど前に越してきました。以前、祖母と一緒に住んでいた古い家の耐震に不安があってここに」

「おばあさんと?」

 余計なことまで話してしまった。

「いえ、なんでもありません。今日は本当にありがとうございました」

 もう一度深々と頭を下げてからドアを開けると、「待って」と声が聞こえてきて動きが止まる。

「なにか?」

 近づいてきた彼は、私の顔をまたまじまじと見つめた。

「すっぴんなんで勘弁してください」

 どうしても見たいなら、眉を描いてくるから待ってほしい。

「ああ、ごめん。あの……おばあさんって、足が不自由な?」

「えっ?」

「いつも眼鏡ですか?」

 矢継ぎ早に質問されて、少し戸惑う。

 祖母は足が悪かったし、いつもはコンタクトなのだ。

 まるで私を知っているような言い方に、首をひねった。

「おばあさんにスニーカーを――」

「もしかして、スニーカーの人ですか!?」

 大きな声が出てしまい、慌てて口を手でふさいだ。

「そう、スニーカーの人」

 彼はくすっと笑った。

「す、すみません。失礼な言い方を……」

 名前を知らない彼のことを、祖母と〝スニーカーの人〟という呼び方をしていたのでとっさに出たが、失礼だったと慌てる。

「いいですよ。その通りだし。おばあさん元気?」

「……実は、半年前に亡くなりました。それで引っ越してきたんです」

 私の両親は小学四年生のときに離婚して、母と祖母と三人での生活が始まった。しかし母が五年前に再婚したため、古いけれど広い実家に祖母とふたりで暮らしていたのだ。

<第4回に続く>

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