ドアを開けると隣の女性が!? 部屋着姿のまま訪ねてきた理由とは?/おひとり様が、おとなり様に恋をして。⑪
公開日:2025/3/4
『おひとり様が、おとなり様に恋をして。』(佐倉伊織:著、欧坂ハル:イラスト/スターツ出版)第11回【全11回】
アラサーの万里子は、仕事のストレスや疲れをビールとおつまみで発散する、おひとり様暮らしを満喫していた。ある夜、鍵を落として家の前で困っているところを隣人の男性・沖に助けられる。話をしていくうちにふたりは以前にも会っていたことが判明。思わぬ再開から長年恋から遠ざかっていた万里子の日常が淡く色付き始めーー。恋愛小説レーベル「ベリーズ文庫with」から刊行の、恋愛下手な大人女子によるピュアラブストーリー『おひとり様が、おとなり様に恋をして。』をお楽しみください。

(佐倉伊織:著、欧坂ハル:イラスト/スターツ出版)
大学進学と同時に実家を出て、三十四歳の今日までずっとひとり暮らしをしている。誰かと一緒に住みたいと思ったことはないし、むしろひとりのほうが自由で気楽だ。それなのに、なんとなく誰かの声を聞いていないと寂しく感じるというのは、おかしな感情だなと思う。
とはいえ、生活リズムをほかの人に合わせて崩れるのは嫌だし、プライベートに踏み込まれるのも好まない。テレビの音声くらいがちょうどいいのかもしれない。
「やば。温めすぎた」
温める目安はパッケージに書かれているが、細かいことを気にするタイプではないため、自動のボタンを押してしまう。そして毎回、温めすぎたと後悔する羽目になる。
仕事では坂田に『同じ過ちの繰り返しは、暇なやつがやることだ』とお灸をすえるくせに。
「暇なやつだな、俺」
俺は苦笑しながら、キッチンのタオルで容器をつかんでリビングの二人掛けのダイニングテーブルに運んだ。
この部屋は1LDKで、寝室にしている六畳の洋室と十二畳のリビングがある。リビングにはソファも置いているけれど、脱ぎ散らかした洋服の置き場になっているのが残念だ。
食べる前にコンタクトを外して眼鏡に替えた。
尾関さんの眼鏡姿が新鮮だったが、俺も同じか。
目の乾きを覚えるコンタクトから解放されるこの瞬間はかなり気持ちいい。しかし、視力の左右差が大きいため、コンタクトのほうが矯正しやすいのだ。あとはなんといってもずれたり曇ったりしないのが気に入っている。
早速食べ始めたものの、温めすぎたのもあり、唐揚げにカリカリ感がまったくない。野菜炒めがようやく作れる程度の腕前では、揚げ物なんて命がけになるので、贅沢は言えないのだが。
だったら外で食べてくればいいのだけれど、仕事が終わったら一刻も早くスーツから解放されたい。
なんでネクタイなんてしないといけないんだろう……。
そんなくだらないことを考えながら食べ進んだ。
ヨーグルトもしっかり胃に入れた頃、玄関のチャイムが鳴ったので驚く。しかも立て続けに何度も。
こんな時間に遠慮なく訪問してくるなんて浅海くらいしか心当たりがなく、なにかあったのではないかと焦ってドアホンを覗いた。するとそこには、眼鏡に部屋着姿の尾関さんがいる。
まさか、また鍵をなくした?
慌ててドアを開けると、彼女が部屋の奥を指さして「あ、あのっ」と声を大きくするので首を傾げた。
「雨が……洗濯物」
「あっ、忘れてた!」
カーテンを閉めたまま出社したため、洗濯物を取り込んでいないことなんてすっかり頭から飛んでいた。
バタバタと部屋の中に戻り窓を開けると、風が強いせいか雨が斜めに差し込んでいて、洗濯物が少し濡れている。
とはいえ、この程度なら室内で乾かせばセーフだろう。
すべて取り込んで再び玄関に向かったものの、すでに尾関さんの姿はない。
俺は隣の部屋のチャイムを鳴らした。
尾関さんはすぐに出てきてくれた。眼鏡のリムをかすかに上げた彼女は、うつむき加減のままだ。
もしかしたら、メイクを落としているからだろうか。誰かに会うには、男にはわからない準備が必要だったのかも。いや、夜遅く異性が部屋を訪ねるなんて警戒されても仕方がない。配慮が足りなかったと反省した。
「急にすみません。すごく助かったからお礼を」
「とんでもない。私も忘れてて、雨の音がしたので慌ててベランダに出たら、タオルがちらっと見えて……。だ、断じて下着は見てませんから!」
彼女がほんのり頬を赤らめながら後半を強調するのでおかしくなった。それで目を合わせてくれないようだ。
「あはは。見られても困らないから平気」
「ですから、見てないですって!」
そう言いながら、なぜか自分の顔を両手で隠す彼女がおかしい。
なんというか、素朴な人だ。もちろん悪い意味ではなく、自然体でこちらも肩に力が入らないというか……。彼女の前では、俺も気取らなくていいと思える。
「とにかく、すごく助かりました。ありがとう」
もう一度軽く会釈をして離れたものの、ふと振り返る。
両手を下ろしていた尾関さんは驚いたような顔をしていたが、俺は口を開いた。
「忘れてた。おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
俺が自分の部屋のドアを閉める前に、彼女の部屋のドアが閉まる音がした。
やっぱり恥ずかしかったのかもしれない。
そういえば、連絡先を交換したのだから、それで教えてくれたらよかったのに。慌ててたんだろうな。
そんなことを考えると、勝手に頬が緩んだ。
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