無数の御札が貼られた痕跡、毎夜ガラス越しに現れる黒い影… 不動産管理会社元営業マンが体験した、本当にあった怖い家の話【書評】
PR 公開日:2025/2/15

事故物件――売買や賃貸の対象となる不動産物件のうち、その建物の部屋または共用部分などで、主に自殺や殺人などの死亡事故が発生した経歴のあるもの。心理的瑕疵のある物件……。人の数だけ家があり死があるのだから、当然この世にはそんな曰くつきの物件は少なくない。「近づきたくない」という人もいれば、「家賃は安いし、ちょっぴり住んでみたい」という人もいるかもしれない。もし、ひょんなことからそんな事故物件に出合ってしまったらどうなるのだろう。もちろん何の問題もない場合がほとんどだが、中には世にも恐ろしい事態に見舞われたという人もいるらしい。
『告知事項あり。』(児玉和俊/主婦の友社)に書かれているのは、そんな事故物件をめぐる「本当にあった怖い家の話」。約7000室の物件を内見した不動産管理会社の元営業マンで、日本で初めて事故物件を対象に“オバケ調査”を行う株式会社カチモードを起業した著者による実録集だ。著者の児玉さんは営業マン時代も起業してからも、事故物件で起こる不可解な現象をたくさん体験しており、それがつぶさに記されたこの本を読むと、その現象を猛烈な寒気とともに追体験できる。なお、書籍の発売を記念し、開設されたYouTubeチャンネル「オバケ調査のカチモードちゃんねる」でもリアルな体験談動画をアップしているので、こちらも併せてチェックしてみてほしい。発売後まもなく注目が集まり、ドラマ化と重版も決定している。
無数の御札が貼られた痕跡のある部屋、著者だけが感じた後退りしたくなるほど強烈な部屋の臭い、突然喋り出す遺品の人形、不審死が続く一軒家の屋根裏部屋から聞こえる物音、毎夜ガラス越しに現れる黒い影……。事故物件を抱え、先行きを不安視するオーナーや、慣れない死亡事故に追われ焦燥の中で業務に当たる管理会社の人々の姿を目の当たりにしながら、いざ問題の物件の内見へと進めば、目の前の部屋に漂う正体不明の気配に身の毛がよだつ。この本に書かれているのはフィクションではない。その事実が何よりも恐ろしい。
この世のものとは思えない現象の裏にはきっと何らかの原因があるはずだ。だが、この本に書かれた実録では、著者の実体験が書かれているからこそ、必ずしもその原因が分かる訳ではない。一体何が起きているか分からない、原因が分からないからこそ感じる恐怖がここにはある。だが、関係者はその原因に何らかの心当たりがありそうなのだ。物件を見たときに著者が体験した出来事を聞いた途端、古い家を解体せず売却しようとしていた人が突然家を解体してしまったり、かと思えば、物件の借り上げを希望していた別の人が、やっぱり止めると言い出したり。心変わりした理由を問えば、豹変したように怒鳴り声を上げる人、冷たく突き放す人もいれば、不自然なほどやさしい口調で「知らない方がいいこともあるから、そのことはもう聞かないでよ」と諭してくる人もいる。なんて不気味なのだろう。一体この部屋で何が起きているのか。分かりそうで分からないもどかしさが、かえって背筋をゾクゾクと凍らせる。
この本では、舞台となった部屋や建物、当事者や関係者に迷惑がかからないように、また本書を通じて追体験をする読者に悪影響が出ないよう、一部の表現を調整しているという。だけれども、読めば読むほど、何だか背後に視線を感じるような、誰かに覗き込まれているような気がしてくるのはなぜだろう。この本で追体験したもの、目にしたもの、聞こえてきたもの、嗅いだもの、五感を刺激してくるすべてのものが、私たちの心をザワめかせ、不穏な気分にさせてくる。各話の末尾には、舞台となった部屋の間取りと、何が起きたかがまとめられた報告書が添えられるが、「今度、部屋を探すときには、どこに気をつければいいのだろう」とつい考えてしまうのは私だけではないはず。実話だからこそ生々しく感じる、恐怖、戦慄、絶望。事故物件をめぐる生の怪談に触れる勇気があるなら、この本を手に取ってもらいたい。
文=アサトーミナミ