海外赴任帰りのイケメン社員は大人気! 女性に囲まれ困っている彼に助け船を出す/恋より仕事と決めたけど③

文芸・カルチャー

公開日:2025/2/24

恋より仕事と決めたけど』(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)第3回【全11回】

「可愛げがない」とフラれ続けた神崎志都(かんざきしづ)は、恋は諦めて独身謳歌のため仕事に邁進中。しかし志都が最も苦手な人たらしの爽やかイケメン・真城昴矢(ましろこうや)とご近所になってしまう。その上、仕事で支えてくれる甘やかし上手な昴矢にタジタジ。これは恋まであと一歩!? 恋愛小説レーベル「ベリーズ文庫with」から刊行の焦れキュンオフィスラブストーリー『恋より仕事と決めたけど』をお楽しみください!

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『恋より仕事と決めたけど』
(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)

 即座に視界に入ったのは、千笑ちゃんとも話していた、私の秘密の趣味だ。

 ソファにでんと座り、つぶらなプラスチックの瞳でこちらを見つめているのは、等身大のクマのぬいぐるみ『ボブ(オス・三歳)』。なにを隠そう千笑ちゃんの職業はぬいぐるみ作家で、そんな彼女から引っ越し祝いでプレゼントされたものである。

 私は昔からクマのぬいぐるみやそれをモチーフにした小物、服などが大好きで、大人になったら絶対に大きなクマのぬいぐるみを部屋に置いて愛でるのだという夢を持っていた。

 しかし、初めて付き合った恋人にその夢を語り『へー、似合わないね』とバッサリ言われて以来、人前では絶対にぬいぐるみ好きの趣味を明かさないことに決めている。

 だから知っているのは家族だけだったのだけれど、弟が千笑ちゃんとの結婚前にポロッとその話をしたら、千笑ちゃんは『義理の姉がぬいぐるみ好きだなんて運命的~!』と感動してくれたらしい。それからいっそう私を慕うようになるとともに、仕事の合間をぬってボブを製作してくれたというわけだ。

「ああ、私の癒しはボブだけ……」

 誰にも見せられないほど脱力した体勢で、ボブのふわふわな体に身を預ける。

 その間だけは、ランニングの疲れも、近所に同僚が引っ越してきたという面倒な事態も、頭の中から追い出した。

 

 週明けの月曜日。真城さんと出勤時間がかぶらないか少し緊張しながら家を出たけれど、幸いマンション周辺でも通勤コースでも彼と出くわすことはなく、浜松町のパンドラパントリー本社に到着した。

 ガラス張りで都会的なデザインの高層ビルの中には、オフィスだけでなく飲食店やコンビニ、銀行の窓口まであるのでとても便利だ。

 営業部があるのは十二階で、壁のない開放的なフロアで国内営業部と海外営業部が一緒に仕事をしている。

 個人のデスクは一応それぞれの部署で島に分かれているものの、自由に利用できるオープンスペースに部署の区別はない。

 個人的には自分のデスクより集中できるので、朝のメールチェックはそこで済ませるのが習慣だ。

 しかし、オフィスに入った瞬間、目的の場所に多くの人が集まっているのが目に入ってぎょっとする。営業部はどちらかというと男性社員の割合が多いのに、なぜか女性の姿ばかりだ。

「アメリカワイン、未経験なので飲んでみたいです~。真城さんのおススメは?」

「有名なのはカリフォルニアワインだけど、オレゴン州のピノ・ノワールを使ったものなんかはとても香りがよかったよ。いくつかのワイナリーと契約を結んできた」

 人垣の中央にいるのは、ニューヨーク支社から帰還したエリート社員・真城さんだった。予想はしていたけれど、帰国するなり女性社員たちの興味を一手に集めているようだ。そういえば彼がまだ日本にいた頃も、色々女性たちが噂していたっけ。

 父親が経営者だから実家がお金持ちとか、身に着けているブランドもののスーツのバリエーションが多彩なうえ、どれもセンスがいいとか。

 生まれつきの容姿に恵まれているうえ家柄もしっかりしていて、かといって親の七光りという感じでもない。総じて真城さんには女性を喜ばせる要素しかないのだ。

 とはいえ真城さんにモテる自分を鼻にかけた雰囲気はなく、彼女たちの質問にも親切に答えている。

「東京でも飲めるお店ってあるんでしょうか? せっかくなら真城さんの帰国祝いに、みんなでワイン飲みに行きましょうよ」

「そうだな。探せばあると思うから、後で店をリサーチしておくよ」

「ありがとうございます~! ちなみに英会話の勉強はどうされてたんですか? 真城さんが帰ってきたら教えてもらおうって、みんなで楽しみにしてて」

 真城さんは優しげな愛想笑いを続けつつ、ちらりと腕時計に視線を走らせる。帰国したばかりの彼は取引先回りの件数もきっと多いに違いない。

 あまり無駄話をしている暇はないのだろうが、さすがの彼でも女性集団の圧には弱いのか、それとも久々に会う同僚たちを無下にはできないのか、話を切り上げるタイミングを見失っているみたいだ。

 優しい性格なのは結構だけれど、仕事の話とはずれているみたいだし、いつまでもそこに大勢でいられるのも困る。うるさい奴だと思われるのを承知で、私はつかつかと彼らのもとへ歩み寄った。

「真城さん、部長がお呼びです」

 彼は一瞬きょとんとした後、私の意図を察したようにかすかな微笑みを浮かべた。

「わかった。……それじゃ、英会話のことはまたの機会に」

 迷惑そうなそぶりは見せず、にこやかに女性たちのもとを離れる真城さん。

 もしかして余計なお世話だったかなと思っていたら、近くにやってきた彼が軽く身を屈め、私に耳打ちした。

「部長が呼んでるって嘘だろう? 助かった。ありがとう」

 ホッとしたような声がくすぐったい。やっぱり彼は筋金入りの人たらしだ。

「いえ。そろそろ始業時間ですし、私自身があそこで仕事をしたかったので」

 彼のために行動したと思われるのは、なんとなく気まずい。あくまで仕事のためと強調するように言うと、真城さんがふっと苦笑する。

「なんだ、そうか。近所のよしみで助けてくれたのかと思ったよ」

「ちょっと真城さん、その話は……」

「冗談だよ。そろそろ行くから、きみも頑張って」

「……はい」

 たとえ冗談でも〝近所〟とかあまり口にしないでほしい。万が一会社の誰かに聞かれたら、彼のプライベートについて知りたい女性社員たちから、私まで質問攻めに遭いそうだもの。そうなったらとんだとばっちりだ。

 少しの不満は残ったものの、彼は先輩なので顔には出さない。皺ひとつないスーツの広い背中が見えなくなってから小さくため息をつくと、今度こそオープンスペースでパソコンを開いた。

<第4回に続く>

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